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『ねぇ…浜路』
「なぁに?あ。コレ可愛い」
『変、じゃない?』
「どうして?」
スカートを翻しくるりとその場で回り眉を寄せて困惑気味に浜路に訴える。けれど、浜路はそんな私を見ても腰に手を当てて。
「すっごい可愛いから大丈夫よ。そんな事より、この髪飾りとか似合いそうね!」
『んと……』
周囲の視線を一身に受けながら、初めての都だというのに悪目立ちしている気がして肩身が狭い。そんな心苦しいという私の感情などわかっていない浜路は私の髪に様々な髪留めをあててはうんうん、唸っている。もう、彼女は彼女の世界に旅立っていた。何を言っても無意味だと判断してされるがままにした。それを隣にやってきた要君。彼も浜路に便乗してカチューシャをつけてくる。
「あ、これも似合いそうだね。汐慧は何もつけても綺麗だね」
『浜路の方が可愛いよ』
即答で答えると浜路が首に腕を回して歓喜を表現する。そんな私達の姿に要君は憂い憂いとした表情で傍観している。浜路が「 コレにしましょう! 」と言って。宣言通り色違いの花をあしらった髪留めを購入して。浜路が桃色を私が白を受け取り浜路が早速私の髪にそれを付けて嬉しそうに眺めた。
「お揃いね!」
『可愛いね』
腕を組んで浜路が次の店へと私を引っ張る。そんな浜路につられて私も店先を覗く。初めての体験だった。こうやって自分で外観を見て、知り、歩き、感じて、触れることは。ずっと憧れていた事に嬉しくて笑みが零れる。そんな私達から少しだけ遠巻きに荘介さんと信乃は先程から食べ物を食べている。そしてセツ。
「あいつらまるでデートみたいじゃないか」
「信乃は食べ過ぎないように。あとそこでリアルにハアハアしないでください。雪慈さん」
「あぁ……、可愛い。あいつが一番可愛くて美人で、そして超絶可愛い!!!」
「隣を歩かないでください」
「変態くせぇなこのおっさん」
「うるせぇな、糞ガキとヘタレ。……あいつが楽しそうでよかった」
セツが普段見せないような笑みを浮かべていると信乃の食べる手が止まった。
「雪慈……、変な奴が近づこうとしてるぞ」
「んだと!?あいつに近づく野郎は皆殺しだ!!」
信乃の言葉によって制裁しに行くセツの姿を肉まんを手にして咀嚼しながら眺める信乃。
「まるで今まで外に出た事無いみたいな発言だったな」
「それらは全て雪慈さんの所為ではないんですかね」
「俺の所為じゃねえよ…運命だ」
それだけ言ってセツは何故か私に声をかけてきた男性に牙を向けていた。
知らないフリしようと目の前に陳列されるアクセサリーに目を向ける。煌びやかに彩られる可憐なピアス達を眺めながら、私は緋色の珠を見つける。手に取って揺らすと中の液体は赤く揺れた。
『きれい…』
「そうですね。でも汐慧には少し強すぎるかと」
『ッ、荘介さん!』
耳元で聴こえた彼の声に心臓が驚く。慌てて振り返ると荘介さんは面白おかしく静かに笑っていた。
緋色のピアスを片手に持ったまま視線を彷徨わせる。後ろめたい何かがあった。
『これはセツに似合うかなって…』
「雪慈さんに?…似合うと思いますよ」
『本当?』
「ええ」
『…じゃあこれにしよう』
赤く燃える楓の葉のように、温かくて強くて、でも優しい緋色の珠。どうか…秘かな願いと共に胸に抱く。そんな私に荘介さんは黙って見ていた。
『っ、じゃあ私コレ買ってくる』
「はい。買い方わかりますか?」
『!大丈夫。浜路たちの見てたから…』
「そうですか」
『うん』
気まずい、と逃げるように私は背を向けて会計へと駆けだした。
荘介さんは視線を同じように陳列していた翡翠色の珠を見つめていた。
購入が済めば皆を探そうと周囲を見渡す。肩をトントンと叩かれて振り返ると荘介さんが居て。彼も何かを買ったのか小さな紙袋が見えた。
『荘介さんも何か買ったの?』
「ええ。まあ…あの汐慧はピアスをしているのですか?」
『え?ええ。してるよ、ほら』
左耳が見えるように髪を少し上げて見せれば、そこには小さな石のピアスがある。
「本当ですね。あなたがするようには見えなかったので」
『しきたりだから』
「え?」
『ううん。それよりセツ達どこかな?』
「人も多くなって来ましたし、どうぞ」
そう言って荘介さんは私に手を差し伸べる。思わず顔と手を交互に見ながら少し考えたのち彼の手をとる。そんな私達の傍まで来た信乃がみたらし団子を食べながら。
「恋人みたいだな」
そう吐き捨てるように言うから、荘介さんが驚いて信乃を見つめる。その言葉が地獄耳のセツに届いてしまって先程まで周囲を威嚇していたその鋭い視線が荘介さんへと降りかかる。
「荘介……やっぱてめぇは人畜無害じゃねぇな……っ、お父さんは認めませんからね!!」
ツカツカと近寄ると荘介さんと私の間に無理矢理乱入して離れさせると私を後ろから抱きしめて意味のわからないことを言い始めた。毎度の事ながらセツは、少し心配性だ。前で交差されたセツの腕に手を添えて小さく溜息を吐き出す。
「大体てめぇの態度可笑しいだろう!このムッツリが!信乃信乃連呼しながらべったり甘えただったのに、急に汐慧の傍に居たり、いつのまにか汐慧の近くに居たり…お前は何か?忍者か?!気配の消し方上手すぎでチートだ!チート野郎!」
「後半から何を言っているのか理解できません、雪慈さん。いい加減に離れたらどうですか?いつまでも汐慧に張り付いていたら迷惑だと思いませんか?」
「いいんだよ、俺が養うから。お前は信乃と結婚でもしてろ」
「いくら信乃の外見が文句のつけどころがなしにしても、俺にそんな趣味はありませんのでご安心を」
「安心出来るか!ムッツリスケベのヘタレ野郎!!」
荘介さんとセツの言い合いを板挟み状態で聴いていると、ふと、とある一点から視線を感じて顔を上げて気配を辿った。すると屋根に一匹の蟲が居た。だが、それを捉えたのも一瞬の事。瞬きをしている間にその蟲はどこかへ消えていた。微弱な妖気なためはっきりと居場所が掴めず懸念を抱く。それはどうやら信乃も同じようで。二人だけが感じ取った嫌な視線に私は少しだけ身震いがした。
『杞憂ならいいのだけれど…』
ぼそり、と呟いた言葉は誰にも届く事はなく。それと微弱だけど感じたもう一つの気配に眉を寄せて訝しげにしていると痺れを切らした浜路によって二人の言い合いが中断され、私は浜路に誘われるがままに再び観光を楽しんだ。
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