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「目立ってますねあの二人」



荘介が差すのは前を歩く浜路と要だった。



「ちぇ、里見に話があったのにな」
「御忙しいようですし、まあ、こうやって帝都観光をするのも良いのでは?」
「確かに、雪慈の奴扱き使われてるしな」



信乃はぼやきながら柱に隠れて要の動向を監視している子供の姿をした五狐に対して溜息を溢していた。



「またあいつらか」
「本人たちは気がついてないと思っていますけどね」
「いや、めちゃくちゃ怪しいだろ。逆に…なあ、荘介。別に俺の前で強がらなくてもいいんだぜ?」



信乃は急に立ち止まる荘介に視線を投げると、荘介は少しだけ表情を崩した。



「どこまで散歩に出てるんだよ汐慧」
「里見さんは場所を御存知のようでしたし、心配しなくても大丈夫だと思いますが」
「いや、そこじゃねぇだろ」



莉芳が知っていて、荘介が知らない事実に本人が少々腑に落ちない顔をしているのに気がついていないのが厄介だった。
鈍いにも程があると信乃は密かにこちらでも溜息をついていた。



「信乃」


浜路が信乃を呼ぶ。片手に何かアイスのようなものを持って駆けて来る。



「見てみて。はい。帝都名物牛レバーアイスですって、おいしい?」



浜路は有無を言わせず信乃の口にアイスを差しだす。何も知らずに食べる信乃だが「 牛レバーアイス 」と聞いた瞬間、彼は白目をむいて倒れてしまった。
どうやら苦手のようだ。



「信乃!」
「え?なに?」
「信乃はレバー大嫌いじゃないですか」
「だってアイスよ?駄目なの?」



荘介と浜路が倒れた信乃を囲って話せば後ろで一部始終を見ていた要は悪戯な顔を覗かせて。



「あとで莉芳にもお土産にして買ってってやろうっと」



要がお土産を購入していると浜路が声をかける。二人が再び先に歩きだせばそれについていく信乃と荘介。すると憲兵が務める謂わば警察署のような場所へ通り掛った時に、一際大きな争う様な声が聴こえて来た。



「ああ!?何だと!!現八が首とはどういうこったよ!!」
「犬飼現八は憲兵隊長でありながら一週間も無断で勤務離れている。しかも例の噂の渦中にいる者だ。違令は当然……以上」
「こら、待て!コノっジジィ!!」



そう言って抑え込まれていた青年が二人の憲兵に寄って弾き飛ばされ、調度その場を通り過ぎようと歩いていた信乃にぶつかりそうになって、少女が声を出す。



『信乃危ない!』
「え、汐慧?」



聞き覚えのある声が聴こえたと信乃が見上げた先には確かに汐慧が居たが、それよりも先に男の背中が見えて彼はそのまま青年の下敷きとなってしまう。



「っ!この感触…ヤベぇ…また昨日のガキかよ!!」
『信乃、大丈夫?』



階段を駆け降りて信乃へ近づく汐慧。どうやら目を回しているようだ、信乃の頭を太腿に乗せて打ちどころを診ていると青年に声をかけられる。



「汐慧ちゃんの知り合いだったのか?」
『うん。小文吾くんは怪我ない?』
「あ、いや!俺は平気へいき!怪我とかしないくらい頑丈に出来てるからさ!」
『そう』



微笑むと小文吾と呼ばれた青年は頭から湯気が立ち込めそうなほど顔を真っ赤にした。そんな一部始終を傍観者の様に見つめていた荘介はやっと信乃に声をかけた。



「大丈夫ですか?信乃」
「んなわけねーだろ!」



意識を取り戻したのか怒って荘介に反論するが、汐慧の膝の上からどこうとはしなかった。甘えるように泣きつく。



『瘤が出来ちゃったね、痛い?』
「痛い」



赤く腫れた額に指先を這わせると信乃は開けたばかりの瞳を再び閉じて身を投じた。



「いつまで甘えているのですか信乃」



信乃の額に容赦なく荘介の手刀が入った。飛び起きるように信乃は起き上がり荘介へ反論を言い渡す。



「てめぇ、マジでふざけんな!羨ましいからってオレにあたるなよ!」
「え?何の事を言っているのですか?信乃?打ちどころが悪くて昏倒しています?」
「おい。とぼけるなよ……」
「元気そうだな」
『よかった』



元気に荘介へ飛び蹴りしようとする信乃の足を掴んで大人しくさせる爽やかな笑みを携えた荘介を見て、汐慧はそう言った。
小文吾がお詫びにと自営業をしている店へ案内すると信乃を連れだって歩きだす。そんな二人の後を荘介と汐慧が着いていく中。



「 おい!信乃!!!お前こんな美人の知り合い居たのか? 」
「 汐慧の事か?何だよ小文吾。汐慧が好きなのか? 」
「 俺は美人なら全員好きだ 」
「 スゲー最低だな、お前 」
「 協力しろよ、信乃! 」
「 お前は自殺願望者なのか? 」
「 はあ?なんで? 」
「 いや…まあ、いいか(いなし) 」
「 天は俺を見離さなかったんだな……!アリガトウ神様!! 」



信乃と何やら小声で話している姿を見てくすりと笑う汐慧。
荘介に同意を求めるように声をかけると荘介は全部の会話が聴こえていたのか、何だか先程の空気を更に濃度を濃く深く一層寒気すら感じさせるようだった。



『荘介さん?どうしたの?』
「いえ、なんでも。それより散歩はいかがでしたか?」
『楽しかったよ。帝都ってまるで不思議の国みたいだね』
「そうですか、それはよかったですね」



先程の零度はいずこへと言わんばかりの対応の速さだった。
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