19
先に浜路と二人で帰って来ていた要が莉芳の籠る書斎で彼におみあげとして勝って来た牛レバーアイスのまんじゅうを菓子折り付きで差し出した。それを悪戯だと思い放置する莉芳の予想通りの反応に要は笑いながら街の奇妙な噂を口にする。
「笙月院が鬼を捕えたんだって」
「ほう」
興味を持ったのか、莉芳は書物から顔を上げ要を見つめる。それを確認してから要は尚も言葉を続けた。
「鬼も可哀想に…よりによってあの人に捕まるなんてね」
そう言って要は窓から見える外の景色を眺めた。どこか思い当たる節でもあるのだろうか、そのノスタルジックな顔つきに莉芳は物珍しそうに眺めるだけ。
「村雨の事も注意した方が良いよ。強大な力を欲しがる奴らは、教会だけじゃない。まさかあんな姿をしているとは夢にも思わないだろうけどね」
そんな要の言葉に持っていた書物を本棚に終い、再び目的の物を探すために本棚と向き合う莉芳の背中を見つめながら、要はふと疑問に思う。
「ねぇ、莉芳」
「なんだ」
「君が彼女の事を思って雪慈くんを自分の傍に置くのはわかるけど…、何も彼だけが危ないわけじゃないんじゃない?寧ろより危険なのは返って彼女の方なんじゃないのかな?」
要の素朴な疑問に、思わず手にした本を数冊床に落としてしまい。盛大な音を立ててしまう。そんな莉芳の姿に要は驚きを隠せない。
「…あー……、必死すぎて忘れてた?とか莉芳も結構お茶目サンだね」
「五月蠅い、黙れ。あいつがそう簡単に捕まるような娘じゃない」
そう言って莉芳は床に落としてしまった本を拾い上げ中身を拝見する。紙を捲る音だけが室内に響き渡る中、要は唸る。
「うーん。そうは言っても、あの人の執着は凄まじいからね…何だかんだで汐慧だって女の子だし、美人だし、ちょっと心配だよね。…女の子を傷つけるような事しなきゃいいけど」
要の言葉にぴたり、と止まる莉芳の手。少なからず要も彼女の事を気に入っているのか、その証拠に彼の瞳には冷徹な眼が移り出す。彼女の人気に莉芳は二重の意を込めて溜息を吐き出した。
「傷つけたら、莉芳、フォローよろしくね」
「断る」
「えぇーケチ」
「お前がヤる前に私がヤる」
莉芳のいつになくやる気のある声に要は口元を釣り上げる。
「莉芳って本当に一途だよね」
「いい加減その口を閉じろ」
要の笑い声と莉芳の冷たい声が混じり合う書斎に、入りづらそうに立ち止まる浜路と雪慈の姿があった。
けれど、後に。事態は予想もつかない展開を見せることとなる……。
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