24
「ありゃ、何だ!?」
「鬼だ」
「鬼と…女の子?」


ざわめく人波がゆく道端で屋根の上に少女を抱えた鬼のような異形の姿をした者が、人々を恐怖に陥れた。


「っ」


外に出て頭を冷やしていた荘介とその彼に付き合っていた信乃が、突然立ち止まる。そんな信乃の行動に荘介が疑問に思う。


「信乃?」
「何か来る…っ!」
「信乃?!」


信乃が呟くと同時にその気配が感じる場所まで駆けだす。そんな信乃の背中を荘介も追いかける。信乃は感じる妖気の中に、一種だけとても微弱だが清らかな気を感じた。それを差す人物を信乃は一人しかしらない。
まばらな街道を走っていると、突然店先の屋根の上に何かが降り立つ音が聴こえ、信乃も立ち止まり視線を投げる。上を見上げると、確かに鬼の姿をした異形の者が立っていた。不自然に何かを抱く鬼の片腕から、特徴的な青のグラデーションの髪が靡くのが視える。
周囲にいた人々が口々に恐怖の意を示す。


「何だ、あれ」
「鬼だっ!」
「鬼が女の子を抱えてる…!」
「鬼が人を喰らうの?!」


悲鳴を伴う程の騒ぎになる一方で、信乃に追いついた荘介が鬼を見つめる。彼には信乃には視えない角度から彼女の姿が視えたのだろう。雪のように蒼白に染まった美しく、儚い彼女の微動だにしない瞼。服に飛び散った血痕と争ったであろう服の破れ、そして重力に従って彼女の血液が流れ落ちる。全てが紅に染まった彼女の姿に、荘介は破顔した。


「汐慧ッ!」
「荘介!落ち着けって、っ!!」


普段なら有り得ない荘介の取り乱れた姿に信乃も焦りを生じる。必死に荘介を押さえこみながら、もう一度屋根の上に聳え立つ鬼を睨みつける。


「 お前を喰う 」

「…妖を喰らう鬼、それはお前の事か……!だったら尚更汐慧を返してもらうぜ!」


信乃は軒下に配置されていた正方形のテーブルに乗り、そのまま屋根と飛び上がる。着地すると、荘介が呼び止める。


「信乃!?」
「ここじゃ人も建物も邪魔だ。街の外へ誘いだす。汐慧の事は俺に任せろ!じゃあ、またあとでな荘介!」
「信乃!!……っ」


荘介は苦虫を潰したように信乃の名を叫ぶが、彼が一度でも話を聴いたためしがないため。荘介も信乃が去る方向へと駆けだすことにした。荘介の今の胸襟には、蒼白な彼女が赤く染まり消えてしまう悲観の想像に駈られていた。彼女の芳しい血の香りを頼りに荘介は四白の姿に為り、信乃達が向かって行った方向へと四足歩行で駆けだした。


「これがホントッの鬼ゴッコってヤツ?」


鬼と対峙にしながら信乃は、鬼が大事そうに抱く汐慧を捉える。妖を喰う鬼ならば何故汐慧を喰らわない?手頃でしかも信乃よりも強力な食糧だと言うのに…。信乃にはそこが引っかかっていた。だが、ここで争うのも狭すぎる。信乃は鬼を挑発するような言動を起こす事にした。


「俺を喰うなんて生意気な!だったら捕まえてみろっての!!」


信乃はそう言い終えると屋根を飛び越え、駆けだす。後ろを振り返れば鬼が案の定ついて来た。それが確認出来ればそれ以降信乃は後ろを振り返る事はなく。屋根から屋根へと伝いながら人気のない森へと向かって行った。

ALICE+