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-------side:NANA SAKURAI


「よく見て。よく聞いて。タイミングよく指示を出す。次のランナ―は君の声だけを頼りにスタ―トするんだ」
「はい」

門脇先輩がリレ―ショナ―としての練習を教えてくれる。でも私の中での疑問は拭えない。何故なら、方南のストライドのリレ―ショナ―は、祈先輩じゃないの?と、思うから。あの最高のリレ―ションが出来るのに、どうしてやらないんだろう?
勿論。先輩が走る専門だとは聞いているから、純に。ランナ―としての練習を最優先にしたい気持ちはわかるけど……。
耳に直接響き渡る呼吸音。上がって来ていることはわかる。徐々にスピ―ドに乗れているんだ。タブレットからでも確認できる位置。そろそろ合図を藤原くんに出す頃だろうか。


「藤原くんセット」


声をかけた時、私の脳裏には昨日の藤原くんの言葉を思い出してしまった。


「 今のじゃ駄目だ。もっとタイミングをつめろ。 」


きっと、自分が思い描く距離で合図を送ってしまえばそれは、昨日と変わらない結果しか生まれないんじゃないか――。


「スリ―・ツ―・ワン・GO!」


それは焦りから来るカウントダウンだったのかもしれない。


「ちょっと早いかな」


門脇先輩の心配声に、我に返る。けど遅かったのかもしれない。


「藤原飛ばし過ぎるな。八神がまだッ!」


門脇先輩の藤原くんへ注意を呼び掛けるが、スピ―ドを緩めずに走行した結果。
激しい衝突音がヘッドフォンから響き渡った。


「八神くん!藤原くん!」


呼びかけるが応答はない。タブレットの矢印の二つは衝突し、その場から動く事はなかった。


「落ち着いて。藤原はもう立ちあがったみたいだ」


耳をすませて音だけでわかったのか、門脇先輩は冷静に私に呼びかける。


《どうしたの、桜井》
「純……私」
《落ち着いて。藤原は大丈夫。こういう事珍しくないから慣れてる。それより問題は八神の方かも》
「私が、少し早く指示を出しちゃったから……」
《落ち込んでる場合?とりあえず涙拭いて現場に集合するよ。安心しな、そんなひ弱な身体してないから》


純の声はいつもより優しく聴こえた。私を励ましてくれるその声に私は弱音を吹き飛ばして、耳をすませた。落ち着いた呼吸音が聴こえたので門脇先輩の後ろに続いて私も現場へと向かった。



-------side:you


小型インカムは、ランナ―同士の音も拾える連携機能が搭載されているため。さっきの衝突音も拾った。


「一年達ぶつかったな。こりゃ」
「様子見に行こう」
「そうだな。祈、心配すっ……」


ひ―ちゃんが私に呼びかける前に、私は既に現場へと急行していた。


「はあ……あいつは!」
「祈ちゃん。まだ引きずってるんだね……」
「消えないだろ……あいつは莫迦だからな」


そんな二人の会話何て聴こえていなかった。インカムから聴こえているはずなのに、私の耳は私の呼吸と心臓の鼓動で音を全て支配していたのだから。


『たけちゃん!りっちゃん!』


たけちゃんが調度起き上がったところだった。少し首を左右に振って目をゆっくりと開けているたけちゃんの腕を掴み顔を下から覗いた。


『大丈夫?!怪我は?してる?してない?』
「……してません」
『本当っ?嘘ついてない?本当に大丈夫?』


たけちゃんの目を見て外傷がないことはさっきの様子を見ればわかった。けれど、心配で続けざまに尋ねれると圧倒されたのか、たけちゃんはゆっくりと唇を動かした。


「受け身はとれたから大丈夫です」


その言葉を聞いて、嘘じゃないことがわかると私はやっと呼吸が出来た気持ちになった。


『よか、よかった……』


潤んでくる視界を誤魔化す様に今度は倒れているりっちゃんの傍へ寄った。


『りっちゃん』


呼びかけても軽く目を回しているのか、眼が覚めない。徐にたけちゃんへ振り返ると。


「八神も大丈夫です」


安心するような言葉をかけてくれるが、りっちゃんの眠っている姿を見ると本当に息をしているのか、わからなくなって。


『やっぱり……私が走っちゃ駄目だったんだ』
「恙御先輩っ」


目の前が暗くなる。楽しんだら駄目なんだ。もっと苦しまないと駄目なんだ。求めてはいけなかったんだ。私の所為だ。私がずっと捨てられないから……。


『ごめんなさいっ……ごめんなさい……ッ!!』


呻くように呟く姿にきっと驚いているのだろうか。ひ―ちゃん達が到着しても私はずっと誰かに謝り続けていた。


「祈」


誰かが私の肩を掴む。


『ひ―ちゃん……』
「お前の所為じゃない」


彼の顔が目の前に映るのに、それが余計に心を苦しめて、蝕んでくるようで。息が出来ないみたい……。


「ぅ……祈…ちゃん?」


りっちゃんの声が下から聴こえた。目が覚めたのかゆっくりと上体を起き上がらせ周囲を確認しながら、再度私を視界に納める。


「カッコ悪いところ見せちゃった!祈ちゃん?」


ポタポタ。やっと涙が零れて視界に色彩が戻ってくる。


『りっちゃん』


りっちゃんの懐に飛び込み抱きつくとりっちゃんは酷く動揺していた。


「あ、え?祈ちゃん?!な、なにこの状況!?どうしたの?祈ちゃん。泣いて……俺の所為なの?ひょっとして俺の所為!?」


パニックを起こしてりっちゃんが「うわああ」と呻いている。


『よかった……』
「ごめんね」


訳もわからずりっちゃんは謝った。


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