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-------side:NANA SAKURAI


「八神くん!」


急いで走ってきたら八神くんに抱きついて泣いている祈先輩が居た。どういう状況なのか門脇先輩と首を傾げていると、八神くんは私の存在に気がつき。平気だと告げた。


「ごめんね。心配かけちゃって」
「どこにも怪我がなくてよかった……でもごめんね。私の所為で」


ちゃんと謝りたくて謝罪をすると、八神くんは「いいの、いいの」と言ってくれた。いつまでも抱きついて離れない祈先輩に近寄り。


「ごめんなさい。祈先輩」
『……気をつけてね』


涙を拭った赤い目元のまま祈先輩は私に抱きついた。


「藤原。お前は大丈夫だったのか?」


八神くんが藤原くんに尋ねると藤原くんは八神くんが落としてしまったインカムを拾い。


「当たり前だ」
「ごめん!私の指示が早すぎたから」


藤原くんに謝っていなかったから改めて藤原くんに謝罪をすると、藤原くんは「それでいい」と言った。


「お前がスピ―ドを落とさず、駆けこんで居れば接触はなかった」


藤原くんが真っ直ぐ八神くんを見つめる。その純粋な眼に八神くんは言葉を詰まらせた。


「ためらうな。俺達ならやれるはずだ。桜井のイメ―ジ通りのリレ―ションを」


藤原くんは私の事を尊重してくれる。右も左も未だにわからない、そんな私のことを。真っ直ぐに純粋に信頼を置かれる事は他人にそういう風に想ってもらえる事は今まで体験したことのない気持ちだった。


「不思議だよな。この前はいきなりスゲ―、リレ―ション見せたのに」


支倉先輩が未だに私を抱きしめて離れない祈先輩の脇を抱えて所謂。抱っこをすれば、祈先輩は何も言わずに支倉先輩の首に腕を回して体重を預けていた。
その姿がちょっと、いやかなり可愛いと思ってしまう。抱きつかれた時も可愛いとは思ったけど。


「支倉先輩って……」


八神くんの言葉の続きは遮られた。







「曇華一現。再現出来ない以上あのリレ―ションは偶然の域を出ない」
「壇先生」


突然の先生の登場に周囲の視線は一気に壇先生へと向けられる。その後ろから純が出て来た。


「純。先生を呼びに行ってたの?」
「まあね。一応こういう事になったから報告兼ねて……それより、何この状況」


やっぱり純は支倉先輩に抱っこされている祈先輩の方が気になったようだ。


「えっと……抱きしめタイム?」
「何その至福の時間」


純は祈先輩が絡むと少し発言が可笑しい。黙っていると本当に格好いいんだけどな……。


「祈先輩!」


カモン。と手招きしている。抱っこしたいアピ―ルでもしているのかな。


「却下」


支倉先輩が代わりに答えた。


「……チッ、泣きボクロが」


失言だよ、純。


「八神。藤原。間のリレ―ションの練習は暫くなしだ。八神とペアを組むのは有栖川とする」


そんなやり取りを見ていると壇先生は八神くん、藤原くんのリレ―ション禁止令を言い渡す。だけど八神くんのペアを純にするとまで言われてしまう。


「そのかわり。それぞれ相手がリレ―ションをしている時は、それをしっかり見ていろ」


私も含めた八神くん、藤原くん、そして純。四人で顔を見合わせて壇先生を見つめた。


「どういう事ですか?」


八神の質問に壇先生は一言で済ませた。


「やればわかる」


説得力のあるような面持ち。その言葉には一体どういう意味が含まれているんだろう。


「ストライド部。復活したな」


壇先生の視線はいつの間にか支倉先輩へと移動していた。


「ようやくって感じっすね」
『誰に格好つけてるの?』


無言で支倉先輩は祈先輩から腕を離した。落下すると思われたが、実は既にベンチに座っていたので落ちたのは支倉先輩の膝の上。でも祈先輩は支倉先輩の鳩尾を殴っていた。


「……てめぇ……」
『先生。それは?』


そんなやり取りは露知らず。壇先生は祈先輩の目の前に紙を差し出した。


「初試合を持ってきてやったぞ」


支倉先輩も一緒にその紙を覗きこみ。事の流れが掴めず、壇先生へと二人の視線が向けられる。


「月末の吉祥寺スプリングストライドフェス。今後のトライアルツア―には影響しない。ただのエキシビションだ。やるからには勝つ」


そう言い渡され支倉先輩と祈先輩は互いに顔を見合わせる。本当に初耳のようで知らなかったらしい。当然そうなると私や小日向先輩たち、誰一人としてこの場で初めて聞いた事になる。


「試合だ!」
「ものほんの試合だ!」


小日向先輩と門脇先輩が、先生の持って来たプリントを手に取り、若干興奮気味に盛り上がる。勿論、藤原くんと純も。


「試合……イコ―ル。祈さんのお披露目会ですね!」
『違うよ』
「違うな」
「違うからね」
「ノ―イノベーション」


最後の門脇先輩の発言だけは許せなかったらしい。純は門脇先輩に固め技をかけていた。


「あの先生はどういう……」
「壇先生?ストライド部顧問兼コ―チだよ」


何でもないように小日向先輩に言われてしまい、私と八神くんだけは驚きの声を上げていた。


「純!知ってたの?」
「ん?まあ。先に聞かされてたから」
「そうなんだ……」


未だに純が祈先輩を抱っこしようと支倉先輩に挑んでいる事にはあまり触れないでおこう。


「恙御」


壇先生に呼ばれて支倉先輩の膝から降りる祈先輩はそのまま先生の後をついて行ってしまう。


「あの祈先輩」


先輩を引きとめて私は悩んでいた事を素直に口にしてみた。


「どうしたら……あなたのようなリレ―ショナ―になれますか?」
『……』


先輩は何も答えてはくれなかった。ただ微笑むだけで、背を向けて行ってしまう。
祈先輩はどうして、何も答えてはくれなかったのだろう。私はまだあの人の足元にも及んでいないからなのかな……。そう思うと少し切なくなった。



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