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-------side:RIKU YAGAMI


顧問と発覚した壇先生の指示により、俺と藤原は暫くの間リレ―ションをやらなくなった。今は藤原と小日向先輩がリレ―ションの練習をしているが、まったく協調性がない。今も俺と同じように小日向先輩を待たずに置いて先に行ってしまう。ル―ル上それではストライドの意味がない。陸上競技のリレ―でバトンを次走者に渡さないのと同じ事だ。
でも、俺にはそんなことどうでもよかった。何で藤原は、出会って間もない俺の事をあそこまで信頼するのか。信用するのか。俺の事をまるで全てわかっているかのように、言うから思い出したくもない過去を思い出す。思い出したくもない人のことまで思い出す。


「そう言えば祈ちゃん大丈夫かな……」


接触して倒れて暫く意識飛ばしていたとき、泣きそうな声が聴こえた。震える声で名前を呼ぶから。頼りない手で触れられたから、俺は、早く起きなきゃ。起きてその子を安心させなきゃ。って思った。
でも、目を覚ますとそこには涙を溜めた祈ちゃんが居て。驚いた。てっきり桜井さんだと思ったから……いや。心のどこかで誰かが否定した。違うって。


「――走らないのか?」


突然。頭上から聴こえてきた声。聞き慣れない声に思わず顔を上げた。


「ぁ、ぃや……コレも練習っていうか」
「そうか。風を待っているのか」


見た事も無い髪の長い男が、また唐突に訳のわからない事を語り始める。俺には登場から全く理解出来なかった。にも関わらず、何故かその人の言葉に耳を傾けていた。


「風を感じたら迷わずに立ち上がれ。そして走り出せ。そうすれば風がお前の背中を押す」
「風?」


不思議な事を言う人だ。だけどその人は冗談を言っているようにも見えなかった。きっと本当にそう思って言ったんだとわかる。


「名前は?」
「俺ですか?八神陸です」
「お前が……」


そう言いかけた所で何かに遮られた。その何かは、男の人の腰に抱きついた祈ちゃんだった。


『きょうちゃん』
「祈」


親しげに不思議な男の人のあだ名だろうか。“きょうちゃん”と呼び笑顔を向ける祈ちゃんを見る。


「恭介」


祈ちゃんが駆けて来た後ろから、支倉先輩が歩きながらやってくる。


「調子はどうだ?」
「まあ、悪くはねぇよ」
「そうか……祈」


腰に回した祈ちゃんの腕を軽くノックするように叩けば、祈ちゃんは腕を離す。そのまま彼女の背中に手を回して二人は歩きだした。


『ごめんね、ひ―ちゃん』
「いいって。気にすんな。何か決まったら連絡すっから」


後ろを振り向き彼女が申し訳なさそうにそう言うと、支倉先輩は笑って手を振った。
何かを尋ねる事も出来ないような雰囲気に圧倒されていたが、二人が去って行く背中を見送っていると敢えて空気を読まない有栖川が間に入った。


「ホクロ先輩。あの人誰ですか?」
「お前わかってて俺に聞いてんだろ。あとその呼び方で次呼んだらジャイアントロ―リングツイスト喰らわせるからな」
「……」


有栖川は勇者だ。でも口は閉ざすのか、恐れたんだな。お前でも。


「祈先輩があたしから離れていく。何故だ」
「具合が悪いからだ。お前から離れたんじゃない。そしてお前の物でもない」
「……」


一向に話が進まないので割って入った。


「支倉先輩。今の人は?」
「あいつとはよく一緒に走っていた」
「スト部で、ですか?」


その質問に、支倉先輩は言葉を濁した。


「あ―。俺にとってはチ―ムメイトつ―より腐れ縁ってとこだけどな。中学入った頃からの付き合いだし。そうなると、祈ともか。長いな……」


改めて気がついた。みたいに支倉先輩は深々と頷いた。そっか。あの人と祈ちゃんは友達なのか。……いや、友達であんな風に抱きつくのか?あ―でも。祈ちゃんってスキンシップ激しいから支倉先輩にも抱きつくし、俺にも……。やばい、思い出さないでおこう。顔に熱が集中する。


「ランナ―としてはあいつの方が俺より数段上だったけどな」
「えッ。支倉先輩より?!」
「まあ、恭介よりも上には上が居たが」
「祈さんですね!」
「お前そこだけは反応すんのな」
「当たり前じゃないですか。あたしの尊敬と歴史には必須事項の祈さんを推さずに誰を推すと言うのですか、筋肉脳先輩」
「お前、俺よりタイムが遅かった事を根に持ってやがんな」
「筋肉に負けるなんて不覚ですよ……次からトレ―ニング2倍にするか」
「無理すんなよ、祈信仰家」
「良いあだ名ですね。これからそう呼んでください」
「言った俺のがダメ―ジでかいわ!」


有栖川は、支倉先輩よりも強い精神力を持っていた。感心するわ。きっと悩みなどないのだろう。


「ところで、八神。あの人と何喋ってたわけ?」


有栖川が突然、俺に話を振ったから反応が上手く出来なかった。


「え。えっと……なんだったっけ?」
「何言われたんだよ」


支倉先輩も話題に入り。俺は本格的に思い出そうとするが。


「風が強い日は座ってないで走っとけ。だったかな?」


実際聞いた俺でも訳のわからない事を言われた事実しか残っていなかった。


「わりぃ。それじゃさっぱりわかんねぇ」
「患ってんのか?あのロンゲ」
「お前のネ―ミングセンスが的を射抜きすぎて逆に怖いわ。エスパ―?」
「NTN(ないわ。超能力とか。ないわ)」
「……八神。いいか?そろそろ。なあ、いいか?」
「女の子に暴力振るったら駄目だと思います。お気持ちはお察ししますが」


震える先輩の拳を必死に止めた俺は、恭介と呼ばれた人と祈ちゃんの距離の近さの方が気になっていた。


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