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side:NARRATOR
休日の朝。インタ―ホンを押せば出て来たのは恙御叶だった。
「驚いたな。ヒ―スくんがこんなに立派に成長したなんて」
「あ、いえ……」
支倉ヒ―スはこの時、早く逃げたいとしか思っていなかった。恙御叶は柔らかな雰囲気を持ち、老若男女。幅広い世代から人気を誇るこの辺では話題のイケメンお兄さんで名が通っている人物である。だが、ヒ―スは怯えていた。
「ところで、今日は祈に用があるんだっけ?」
「はい……その約束をしてまして」
コトリ。置かれたコ―ヒ―が不自然な程揺れていた。地雷を踏んでしまったかもしれない。心の中で十字をきって神様に救いをこうていた。
「祈とか……そっか。デ―トなのかな?」
「いえ!そんなんじゃないです。断じて!」
「そこまで強く否定されちゃうと祈に魅力がないとでも言いたいのかな?」
何を言っても発砲塞がりだった。自分の姉も嫌だが、祈の兄がこの世で一番耐えがたい程の一人で会いたくない人物ナンバ―ワンかもしれない。
『お兄ちゃん。なにやってるの?』
そこで祈が現れた。既に私服に着替えており今から出掛けようとしている所だった。初めて祈を女神だと思った瞬間だった。
「祈。準備はもういいのかい?」
『うん。髪は結わないでってほづみんに言われて』
「あの可愛い子かな?そっか。部活の子と遊びに行くんだね。暗くなる前に帰ってくるんだよ」
『うん。お兄ちゃんも仕事は程々にね』
祈がいるときは優しい兄の姿だった。あのドス黒い物はなんだったんだろうか。ヒ―スは冷や汗を振り払った。
「行くぞ」
『いってきます』
「いってらっしゃい。ああ、ヒ―スくん。帰りは家まで送ってくれるよね?」
「はい!喜んで!」
どこかの居酒屋のアルバイトにでもなった気分だった。
『ひ―ちゃん。どうしたの?疲れきった顔して』
「……気にするな。ウォ―ミングアップしたところだ。もう怖い物なんてねぇ」
首を傾げる祈。それもそのはず、行き先を告げていないのだから。
『そういえば、どこの会社にご挨拶に行くの?』
「……D’s」
『……え』
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side:HOZUMI KOHINATA
ヒ―スくんと一緒に来た祈ちゃんは、捕獲されていた。今にも脱走しそうな勢いで暴れる祈ちゃんを押さえつけて無理矢理連れて来たらしい。
『騙した!ひ―ちゃんのうそつき!地獄に落ちろ!』
「落ちてやんよ!ただし、お前も道連れにしてやるからな!」
「ド外道はヒ―スくんじゃない?この場合」
昨日の彼の言葉を思い出してみれば、祈ちゃんは僕を見つけるとヒ―スくんの鳩尾に思いきり肘打ちして膝から崩れ落ちる拘束から抜けだし、脱兎の如く僕の後ろに隠れてしまった。
相当、嫌だったみたい。僕もその気持ちはわかる。
「嫌だよね―。アレを条件に出されたら」
『ホント、ほんと。私はお人形さんじゃないんだから。絶対にメディアの露出は事務所的にNG』
「事務所通してだって」
「俺が総監督だ!」
『お兄ちゃんですぅ―。お兄ちゃんに許可貰って来てくださいよぉ―ソウカントク』
面白がって笑っている祈ちゃんは、数日前に比べたら元気だった。よかった。あの後、僕も心配で電話したんだけど、祈ちゃんは普段通りの受け答えをしてくれたから……。僕にはまだ弱音は見せてはくれないのかな。
「祈ちゃんは僕が守るよ」
『ほづみん』
とりあえず、お姉さんの魔の手から全力で護ってみる努力をしてみよう。
そんな決意も虚しく終わったのは祈ちゃんの声が聴こえなくなってからだった。
「祈……相変わらず素材が良いわね」
『……』
後ろを振り返ったら支倉ダイアンさんが祈ちゃんを抱きしめていた。
ごめん……祈ちゃん。僕には勝てそうにない。
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