17 



-------side:JUN ARISUGAWA


スポンサ―契約は最初から頼みに行かなくても壇先生が済ませていたのだが、交換条件として次のスプリングストライドフェスに勝利する事と、モデルをやる事が課せられた。
祈さんはとても嫌そうな顔で終始口を閉ざしていたが、祈さんなら何でも着こなしてしまいそうだ。今から楽しみだな。


「着替え終わったかしら?」
「はい」


まあ、女でありながら燕尾服を着ろという支倉先輩のお姉さん。自分でも似合うとわかっていても着たくないという葛藤さえもどうでもいいのだろうな。軽く化粧を施されていく。


「ん――いいじゃない。そこらへんの男より格好いいわ」


満足げに微笑まれ「ども」と一応言っておく。
あんま嬉しくないわ。これでも女だからな。制服以外で女子らしい格好が出来ると鷹をくくるのはやめた方が身のためなのかもしれないな。もう、二度と期待などするものか。


「うわ――。純、カッコイイよ!」
「はいはい」


桜井の称賛の声に軽く手を振りながら、先に撮っていた藤原の隣に並ぶ。


「二人で並ぶと身長対して変わんないですな」
「女の子にも負ける美男子オ―ラ」
「お前らもうちょっとキバれや」


だから嬉しくないっての。眉がピクピク動きながら指示されるポ―ズを決めていく。


「カメラの前って妙に緊張する。まるでスタ―トラインの上に立っているみたいだ」
「……そうだな」


機嫌が少し悪そうだった藤原は、急に表情を和らげる。変な奴。あたしもつられて笑った。


「いいわね。あの子」
「やっぱし気に入ったか」


そんな声が聴こえた。


「有栖川。様になってるな、カッコイイ」
「八神くんもカッコイイよ」
「ありがとう。俺って単体で撮るのかな?」
「確か祈先輩と一緒だったと思うよ。まだお着替えしてると思う」
「そっか」


祈さんはまだ着替え中か……。あたし達の後ってことはじっくり堪能出来るという事か。……それはとても至高な時間じゃないか。


「顔。元に戻せ」


犯罪臭漂う顔になっていたそうだ。


「恙御さん。入ります」


スタッフの人がそう言うと階段から現れたのは水色のドレスを着て、ガラスの靴を穿いた。まるで童話のワンシ―ンに登場してくるシンデレラのような美しさを誇る祈さんが居た。



-------side:RIKU YAGAMI


言葉を失う程。俺の目の前には俺の知らない祈ちゃんが居た。


「祈先輩。綺麗です!」
『ありがとう、ななちゃん』


桜井さんの賛美に微笑んで答える祈ちゃん。普段からすごく綺麗だって知ってる。わかってる。でも……今、目の前に居る美しさは初めてみたから。言葉がうまく出て来ないで、じっと彼女を見つめていた。


「ほら。ぼっとしてないで」


支倉先輩のお姉さんに背中を押されて照明が照らされる撮影場に入る。その後ろから祈ちゃんもやってくる。
どうしよう……何か言うべきなんだろうけどっ。言葉が出て来ない!上手い日本語をもう少し勉強してくればよかった。頭を抱えながら焦っていると。祈ちゃんがよろっとバランスを崩した。


「危ないっ」


咄嗟に身体を支えようと彼女の腕と腰を掴み引き寄せる。何とか扱けることは回避された。


『ごめんね、りっちゃん。高いヒ―ルでしかもガラスだから歩き方わかんなくなって』


よよよ、と弱音を言う祈ちゃんを見たら馬鹿らしくなって思わず笑った。


『私が背が低いから笑ったんでしょ』
「違うよ!ごめんごめん。祈ちゃんはやっぱり祈ちゃんだよね」


いつも通りの祈ちゃんで、本当に良かった。
焦らずにゆっくりと今は目の前の事に集中して、向き合っていこう。

カメラのシャッタ―音が聴こえた。



prevnext

戻る

ALICE+