ばかにされるのはなれてます

食堂のおばちゃんのご飯はおいしい。

「ねー」

城で提供してもらえる食事なんていつも粥のみで、栄養バランスなんて微塵も感じたことはなかった。

「ねー」

なのに、ここ忍術学園ときたらだ。食堂のおばちゃんはパワフルでお残しには死ぬほどうるさいけどこんなにうまい飯が毎日食えるとは。

「ねーってば」
「ちょ、勘ちゃんうるせえ。今食ってんだよ」
「その唇だれにやられたの?」

ポロリと手から箸がこぼれた。音を立てて床を転がる箸を急いで拾い、さっと拭き取ると私はその言葉をまるで聞こえませんでしたと言わんばかりに、再び食事に箸をつける。
隣からじっとりと感じる尾浜勘右衛門くんの視線が、気持ち悪い。

「ねー、だれ?三郎?」
「私なわけないだろ!!」
「ぎゃあ!おい何すんだてめえ!!」

バシーン!と気持ちのいいほどの音とともに私の頭はひりひりと痛みを感じる。勘ちゃんの言葉にカッとなった鉢屋くんが私の頭を叩いたのだ。
ついつい私もカッとなってしまい、勢いよく立ち上がるとまたまた箸が床に転がり落ちてしまった。

「あーあ」
「あーあーあ」

勘ちゃんと狼くんことハチがわざとらしく私を責めるように見てくる。
こいつらまじぶっ殺してやろうかまじでまじ。

「ちょっと、やめなよ。…夜子さんすみません」
「ら、雷蔵きゅん……」

雷蔵くんだけは私に優しい。
久々知くんなんて一番私に冷たいよ。存在を認識してるか不安になるもの。
思わず雷蔵くんに手を伸ばしたら、鉢屋くんに思いっきり手を叩かれた。穢らわしい!とか言われて。

「お前の手こそ汚らわしいわ!どうせ小便した手洗ってないんでしょ!このカス!チンカス!」
「言うじゃないか」
「うそ、ごめん。ほんとごめん。ウソだよ冗談じょうだ、痛、痛いあが、あががっ」

ズボッと口の中に指をつっこまれて内と外から強くつねられる。
汚いとか言ったからわざと手を口に入れたようだ。涎で臭くなっちゃうよこれ。お前それでいいのかよ!!

「ぎゃー!三郎の指、汚い!」
「俺の装束で拭くなよ!!うげえ!!」

その後鉢屋くんの涎まみれな指は汚物級の扱われ方をして私は心底辛くなりました。
こいつらまじ私のことをなんだと思ってるんだ。
その光景を呆然と見ていると食堂のおばちゃんが一喝。すぐに静かになったがなぜは私は肩を掴まれ「あんたも大人なら注意しなさい!」と怒られてしまった。
怖すぎて泣いてしまった。
そしてまたこいつらに馬鹿にされた。

「でさー」
「いやいや!なんでついてくんの!」

食事が終わり私が席を立つと勘ちゃんは一人で私についてきた。
こいつはセクハラ魔王だから嫌なんだけども。ていうかみんなと一緒にいなくていいんだろうか。

「なんでって、夜子ちゃん、さっきの質問に答えてないだろ」
「……。どんな質問だっけ?」
「く、ち、び、る」

自分の唇に指をあて、あざとく笑う勘ちゃんを見て、忘れていた痛みが蘇ってきた。びりびりと唇が痺れる。

「乾燥して割れたの」
「乾燥してるようには見えないな」
「なんでもいいじゃん!」
「まあ。いいけど」

いいんかい。
ついてきたわりに案外引きが早いな。わざと深く深く深いため息をついて、私を馬鹿にした仕返し攻撃をした。だけど勘ちゃんはまるで動じてなくて、悔しい。私だったら怒ってるよ。

「夜子ちゃん」
「今度は何」
「危ないよ」
「……えっ」

目の前を、ものすごい勢いで何かが横切る。それは少しだけ鼻の上を掠め、ピリッと痛みわ伴った。というか、じんわりと血が滲むのがわかる。

「ほらね」

いつのまにか、勘ちゃんの指と指の間には戦輪が挟まっていて、太陽に反射しきらりと輝いている。私の鼻を傷つけたのは、この戦輪らしい。

「尾浜勘右衛門先輩!なぜそいつを助けるのです!」

そしてその戦輪が飛んできた方から声。反射的にそちらを向けば眉毛の太いやたらと綺麗な男の子がそこに立っていた。

「眉目端麗成績優秀、忍術学園ナンバーワン!のこの平滝夜叉丸……私は絶対お前を認めないぞ!」
「四年の平滝夜叉丸。ただのナルシストだよ」

ハハハと笑う勘ちゃんに、プリプリ怒っているナルシストくん。
なんかまた、変なのに絡まれてしまった。



(馬鹿にされるのは慣れてます)