おとしあなにはごちゅういを

5年の子ともすっかり仲良くなり(多分)左門くんや見張りの子とかとも仲良くなれた気分になってしまったので、気分転換に散歩をすることにした。


「どふっ」


散歩は5秒で終わった。なぜなら落ちたからだ。どこにって?深い深い穴に。なぜって?しらねーよ地面が抜けたんだよバカ野郎。
なぜこんなところに落とし穴なんかがあるんだ!!
思いっきり体中擦りむいてしまった。捻ってたり折れたりしてなさそうなところがさすがの私といったところだろうか。
私の身の丈の倍はありそうな大きな落とし穴。今は武器も持っていない。素手で登れる技術も持っていないときたもんだ。


「うそでしょ」


どうやってもここから出られる気がしない。うそでしょー!!と同じ言葉を叫んだ。
私は罠にかかったのだろうか。こんな突拍子もなく思いついた散歩なのになんて用意周到で緻密な計算がされているんだ。
恐るべし。恐るべし忍術学園。ここの生徒は忍たまなんて可愛らしいもんじゃあない。


「あいつらなんて金たまで十分だ…」


特に面白くもないギャグを言って膝を抱える。この時私は珍しく声を殺して泣いていた。体が痛い時って大声で泣くと体に響いて余計に痛くなるから。
上を見ることなく自分の傷だらけの足ばかりを見ていると、晴れていて明るかった穴の中が急にかげってきた。
まさかこのタイミングで雨なんて言うなよ!
思いっきり首を地上の方へあげるとグキッと嫌な音がなり、また強烈な痛みが脳を走った。


「はっ、う、…いたひぃぃ……」
「なにやってんだ?おまえ」


影が大きくなった。そしてすぐ近くに声。
痛みを一瞬で忘れ、恐る恐る影の方を向いた。


「ぼあああああああ!!!!?」
「わっはっは!相変わらず面白い女だな!」


そこにいたのは深緑の装束に身を包んだ犬…いや違う、男がいた。
昨日、私が一人ぼっちで四面楚歌を体現している時に「殺さなくていいと思うぞ!」と天使の一声をくれたあの男の子だった。


「あ!あの!」
「覚えていてくれているのか!嬉しいぞ!」


太陽のように笑うその子はとても可愛らしいのだが、1つ分からないことがあった。
なぜ一緒に穴に入っているんだろう。すごく窮屈だ。


「この穴は四年の綾部というやつが掘った穴だな!」
「私を殺そうとしてますよね」
「いや、やつは穴を掘るのが好きなんだ!」


あ、穴を掘るのが好きとは、な、なんて破廉恥な。なんて当然違う意味ということは理解した上でジョークを言っています。
しかし、「私も穴を掘るのは好きだ!」なんて彼がものすごい屈託のない笑顔で言うもんだから思わずごくりと唾を飲んでしまった。


「なんで一緒に入ってるの?」
「ん?遊んでたんじゃないのか?」


遊んでるわけあるかいな!!
とツッコミはしないが控えめに否定をした。少し残念そうな顔をしたが私にはそれがなぜかわからない。


「じゃあ、今から私と遊ぼう!」


攻撃してくる奴らからは私が守ってやる!
大きな声で笑いながら、私は考える間もなく体が宙に浮かぶのを感じた。
え、わたし、とんでる。とんでる?


「いやあああああああ!!!」
「いけいけどんどーん!!」


私を軽々と持ち上げた彼は思い切り飛び上がり穴を抜け出した。のもつかの間、ものすごい勢いで走り出す。それはもうものすごいスピードで。


「死ぬ!殺される!殺される!!」
「私はそんなことしないぞ!」
「これは死ぬってぇぇえええ!」


彼は私を担いだまま森へ入っていく。木の枝が私の頬をかすめた。腕もかすめた。ちなみに足だってかすめた。つまりめっちゃ痛い。


「痛い痛い!とまって!とまれ!とまれぇぇ!!」
「なんだ止めて欲しいのか?目的地はまだまだだぞ!」


いけいけどんどん!と訳のわからない掛け声とともに少年は更に加速する。もう私はダメだ。この学校で唯一私に優しい人だと思っていたが、騙されたのた。私はこの人に殺されるんだあ。


「なにを泣いているんだ!別に犯したりしないぞ」
「えぐっえぐっ、…ぶえ?」
「私の名は七松小平太!よろしくな!」


さきほどまで死を覚悟していたが、少年、七松氏のその笑顔を見たらなんとなく胸がときめいた。



(落とし穴にはご注意を)
可愛い少年に拾われる可能性があります