この状況は一体なんだ。
「あのう」
「ん?どうした!」
可愛い少年に拉致され、たどり着いた先は茶屋だった。まるで恋人のように肩を重ねて座り、恋人のようにお茶をすすっている。
「なんで私はここに」
「なんでって…」
キョトンと丸くて大きい目には間抜けな顔の私がうつっている。鏡にもできる大きな瞳。なんて羨ましいんだ、て妬んでいる場合ではない。
どうしてこうして私は泥だらけでわりと洒落た茶屋でよくも知らない少年と肩を並べているんだろうか。しかも敵陣のやつ。
私の質問に少しだけ悩んだそぶりを見せた七松くんは「お前のことが知りたいんだ!」と笑った。
なんてことだ。
年下の男の子に口説かれてしまうとは、なんて罪深い私。などと言っている場合か。
やはり忍術学園の生徒は信用出来ないんだ!こうやって優しくしておいて、私を騙そうという寸法というのはお見通しだ!
「ど、どう、ど、どどういうつもりよ!!」
かっこよくビシッとキメたつもりだった。
ときめくことを言われた私は嘘だとわかっていながらも、ついついニヤついてしまうなんて、愚かな私。
私の心のうちなんてお見通しなのか、七松くんはガハガハと豪快に笑う。
「なあ!名前はなんていうんだ?」
「え、……夜子、だけど…」
「夜子はどうしてこんな無謀な話にのったんだ?」
「え?」
無謀な話。採用試験のことで間違いないだろう。
どうして、と言われても。醜く生に執着する忍の風上にもおけないダメ忍者とでも思ってくれたまえよ。それとも、よっぽどおかしな女とでも思われているのだろうか。
「実際、採用試験に受かる気ないだろう?」
ずばり言い当てられてしまい、肩を竦めた。
こういう話は天井裏の彼にもしたような気がする。
「ないよ」
まっすぐ目を見て、答えた。
七松くんの心のうちは残念ながらダメ忍者には分からない。
彼はその答えを聞き、ニンマリと笑い私の頭を撫でてきた。
「その浅ましさが、今まで夜子を生かしてきたんだな」
その言葉に、私は一瞬反応ができなかった。
相変わらず、七松くんはニンマリと笑っていた。
(にんまり顔の七松くん)
さては君、いい子じゃないな