にんじゃのくせになまいきだ

あのあとも七松くんは解放してくれることなく、私が部屋に帰ってきたのは次の日の未明だった。
いけいけどんどんなのは言いけれど、なんで私まで巻き込んだのか。

「浅ましい、か」

けして間違いではない。むしろ誰も言わなかった言葉を彼が代わりに言ってくれたのだとも思った。
私はどれほど使えなくても、浅ましく図々しく生きてきた。分かっている。

「けどちょっと落ち込んじゃう」

ばたりと布団に倒れ込み、目を閉じた。今日はもう、このまま寝てしまおう。
天井裏の彼は今日もいるのだろうか。私が七松くんに振り回されたのは知っているのだろうか。
おしゃべりする気にもなれず、気がついた頃には眠っていた。


***


「もう朝なの…」

日差しで目が覚める。太陽の位置からしても昼にはなってないみたいだ。
眠った気がしない。とてつもなく体が重い。いや体重の話ではない。デブではない。ちょっと太ってるけどデブではない。
よっこらせ、とババむさく掛け声とともに起き上がる。
顔を洗うために一旦部屋を出てると何やら外が騒がしかった。
騒ぎがあればとりあえず見に行くのがプロの野次馬。特に何も考えずにふらふらと足をむけた。
けどダメだった。私はプロの野次馬にはなれなかったのだ。

「ああ、いたいた」

二度と会いたくない男がいた。
私の心に深い傷をつくり、酷いトラウマを植え付けた男だ。

「やっ、山田ぁぁぁぁあああ!!!」

山田利吉。売れっ子フリーの忍者。忍者のくせに人気者。忍者のくせに有名人。忍者のくせに男前。忍者のくせにモテるいけ好かないやつだ。
私が叫んだことによって周りの視線は私に向けられる。なんてことだ。野次馬としてあるまじき行為だった。
しかし憎き男を目の前に、ただの野次馬ではいられない。
勢いにまかせ思い切り殴りかかろうとしたら、案の定避けられ私はその勢いで倒れてしまった。
腕がすごく痛い。

「相変わらずだな。噂をきいて来てみれば、本当に忍術学園にいたのか」
「おめえなんでここにいるんだ!成仏すれや!」
「知らないのか?私の父はここの職員だ。そして私は死んではいない」

なに。と小さな脳みそをほじくり記憶をたどる。ああ、確かにいたぞ山田というダンディーな職員が。しゃくれ顎髭の山田というオヤジが確かにいたぞ。

「神が言っている。ここで山田を殺せと」
「物騒なことを言うな」
「ああああんた私に何やったか覚えてねえとは言わせねえぞ!!」

ビシィ!と指をさせば桃色の装束をきた女の子に「馬鹿みたい」と笑われた。しかし私はそんなの気にしない。恥ずかしくなってゆっくりと手を下げるが気にしてなんかいない。
この状況を把握できないだろう周囲はひそひそと好き勝手に妄想を広げていく。
捨てられたとか
孕ませたとか
売られたとか
それはもう好き勝手も好き勝手だった。
そんな状況の中、1人の井桁模様の装束の眼鏡をかけた男の子が、山田に歩み寄る。

「あの人となにかあったんですか?」

それはもう素直で純粋な質問だった。山田はその質問に対しニッコリと笑い、「そんな、大したことはなかったんだけど」と返した。
そんな大したことはなかったんだけどとな?
私は絶対に忘れない。
あの日のこと絶対に忘れない。

「しかもあれは私の判断ではなく雇い主の命令だぞ」
「それでも!」
「なんにせよここで話すことではないな」

部屋に案内してもらえるかな?
甘いマスクに甘い声。
キャーと悲鳴ともとれるような叫び声が聞こえた。

「へ、へへ部屋に入ったらただじゃおかねえ!キンタマつぶすぞ!!」
「野蛮すぎるだろ」

ため息とともに掴まれた腕。くのたまからのブーイングの嵐の中、私は野郎に腕を引かれ部屋の方へと向かっていく。
私の部屋、どこか知ってるんかい。



(忍者のくせに生意気だ)
忍者のくせに腹立たしい