しんしんと外では雪が降り積もる。音を吸い込むような静けさの中、急遽敷いてもらった布団に寝かされた女の表情を音之進はまじまじと見つめた。無防備に眠りこけている女の顔には見覚えがあれど、拭いきれない違和感が僅かにまとわりつく。まろい頬は下ろしたての絹のように傷ひとつなく、顔立ちも体付きも、記憶のなかのそれより幾分かあどけなさが感じられた。
音之進は、まだ、穴が空くほど女を見つめる。信じられないこの状況に軽く目眩がした。脳裏に浮かぶ像と目の前の現実が微妙に噛み合わない。その齟齬が、かえって不気味さを際立たせている。
アシリパ奪還のため先遣隊としてここ樺太に寄越された音之進であるが、その初日である今日、アシリパの目撃情報を辿って雪山に足を踏み入れた折のこと。明らかにアシリパではない女を担いで現れた杉元を目にして、まず音之進は眉を顰めた。彼らがここに来た理由はアシリパを探すためであり、知りもしない女を拾うことではないのだ。
「なんか、落ちてたんだけど」
「見かけない服装だな」
「アイヌの民族衣装か?」
「うーん、こんなに薄いはずないと思うんだけど……」
同じくアシリパを探して行動を共にする杉元、谷垣、月島が口々に女を囲んで言葉を交わす傍ら、その輪の外側で、音之進だけは顔を一目見てやろうと杉元の背後に回った。
地毛にしては少し明るい茶髪が、杉元に担がれたことによって重力に従い、女の顔に影を落としている。雪明かりを受けて僅かに揺れるそれを指先で掻き分け、ようやく女の顔が露わになった瞬間。
「……は?」
音之進の表情が目に見えて驚愕に染まっていく。いや、それよりも歓喜が何倍にも上回って、胸の奥から込み上げてくる何かが喉元までせり上がり、思考を追い越して口を衝いた。
これは確定事項だ。この女を連れて行く、と。
そうやって無理を言って連れてきた女の寝顔は、こうして今目の前にある。まるで時間だけがそこからこぼれ落ちたかのように、音之進が初めて彼女と出会った時とその無防備な寝顔はひとつも変わらない。恋しくて、愛しくて、どうにかなってしまいそうだった。← - back - →
top