流転

 そうして各々が練習に打ち込み、翌日の昼。ついに開演だ。私はというとヘンケ、エノノカと一緒に列に並んで観客席である。少尉の尽力もあって私は何の出演も無し。四人の練習を他人事のように昨夜は眺めて、先に綺麗な旅館で爆睡した。髪も肌もツヤツヤ。豊原、最高!

「楽しみだね、お姉ちゃん!」
「お、始まるみたいだよ」

 少し薄暗くなって、座長が開演のご挨拶をする。開演早々、まずは軽業だ。長吉が大小様々な桶を重ねていき、頂上に立ってハイポーズ。会場のボルテージはマックス。初っ端から大盛り上がりである。

「あ! 鯉登ニシパ!」
「絶好調だね」

 続いて、またまた軽業。鯉登音之進。竹のような長い長い棒の頂点に足を引っ掛け、とんでもない体幹で空中に滞在する。こちらを見下ろす少尉とバチッと目が合った。

「チュ……」
「とんでもないサービス」

 投げキッスのお見舞い。これによってここら一帯の女性はメロメロになった。全く罪な男だ。お次は軍曹と谷垣のいる少女団のダンス。よくもまああんなフリフリでコストの高そうな衣装をムキムキ成人男性二人分作ろうと思ったものだ。存外愛されていそうで、ちょっと、さすがに面白すぎるな……。

 大独楽回しではぐるぐる回るデッカいコマからチカパシが登場。ぐるぐる回っていたので出てきた途端にゲボ吐いていた。マ、通常運転である。体を張ったチカパシに会場はどよめきと控えめな拍手で包まれた。

「お次は鯉登音之進の『坂綱』でございます!!」
「あ、昨日の夜練習してたやつだ」

 私は練習しているみんなを置いてさっさと旅館に帰ってしまったため、これがどんな演目なのか知らない。気分はさながら息子の発表会を見守る母親のよう。
 まずは鬼の体幹で綱を渡る。しかし渡り切る前に突如として叫び声を上げ、綱から飛び降りてしまった。危なくないか、これ。しかし少尉はというと、崩梯子上乗芸、紙渡り、ロシア式飛びと次から次へと別種の演目に混ざって、最後は華麗な着地で終わらせた。

「す、すごい……!」
「さすが鯉登ニシパ!」

 この次はいよいよ不死身の杉元ハラキリショー。この会場の熱を少しも逃がさないよう、つなぎの少女団が懸命にダンスを踊る。可愛い可愛いと叫ぶ声もチラホラ聞こえる。よかったね、ゲンジロちゃん……!
 そして大トリ、ハラキリショーのスタート。ワアッ!と会場も拍車をかけて盛り上がる。チカパシが杉元に水をかけ、冷たい冷たいなどと余計な前情報をいれつつ、いざ入刀。

「痛だだッ!!」

 あれだけ座長から痛いと言うなと言われてたのに。ピタリと動きを止めた杉元がキョロキョロと当たりを見渡し、そして覚悟が決まった顔で次は足も切る。

「すっごいリアルだね、エノノカちゃん」
「りある?」
「本物みたい、ってことだよ」
「うん、りある! ほんとに切ってるみたい!」

 最後に杉元が刀身を腹に突き立てようとした、その時。今度は別の演者が三名、杉元の前に躍り出た。そこからはあっという間で、その三人が杉元に斬られておしまい。妙に迫真めいた芝居の締めだったな。あれはあれで面白かった。最後に全員で挨拶して、山田曲馬団の公演は無事終了したのである。

「面白かったねぇ、エノノカちゃん」
「ね! また観たい!」
「観よう観よう。ヘンケが元気なうちにね」
「うん!」

 エノノカもご満悦。来た道を戻って今日もさっさと旅館に帰って温泉に浸かった。極楽、極楽。
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