「今までありがとう」
「おう」
「元気でね、活躍期待してる」
「あぁ」
「絶対、あっちの方からまた来てね?」



 そうレキが指をさしたのは、今まさに自分達がやってきた方角。これから船を出す方角とは真逆をさす意味は、これまで共に追ってきた夢を叶えてと語っていた。

 おれは素っ気なく、レキが必死になって会話が途切れない様に喋る言葉に返事をする。

 今更、何を言えばいいかもわからない。
 死の外科医なんて呼ばれているくせに、おれは今日、自分がこの手で救えない命があることをまざまざと見せつけられ、そして手放す選択をするしかなかった。

 そしてそれが、愛した女だとして。
 これほどの屈辱と後悔はなかった。



「体調はどうだ」
「平気。やっぱりこの島のお水を飲むと良いみたい」



 治療法の無い病だった。
 身体の中に原因となる病魔が巣食っていることは分かっているが、それは何度取り払おうと暫くすればすぐに再発した。それはどんどん大きくなり、身体に毒をばら撒く。確実に命を食んで成長していった。
 永遠に取り除くことも考えたが、その度に病魔が巣食った場所はボロボロに機能が死んでいった。



 様々な医学書を漁り、情報を集め、俺達はこの島に辿り着いた。この島の水を飲む事で、病魔が段々枯れていくことがわかったからだ。

 ログが溜まる前に元の航路に戻らないといけない。1ヶ月もの間、島の水を徹底的に調査したが、何故その水が病魔に聞くのかは結局わからなかった。



「寂しくねぇか」
「む、そりゃ寂しいよー。皆と一緒にローが海賊王になるの目指し、て……」



 レキを島に残す決断をしたのはおれ。
 泣いて着いて行くと言ったレキを、船長命令なんていう言葉で抑えこんだ。

 そうまでしても、死んでほしくなかった。

 ぽろりと零れた涙を隠す様に、後ろを向いたレキの肩は震えていた。



「でも平気、電伝虫だってあるし」
「レキ」
「……足手まといは、嫌だし」
「違う、そんなんじゃねぇ」



 小さな体を後ろからきつく抱きしめた。
 以前と比べると随分痩せ細ってしまった体。
 まるで壊れ物に触るように抱き締めていたが、今ばかりは何も考えず感情のまま腕に力を込める。

 おれが、治してやれたら。



「死んでほしくねぇんだ。お前だけは」
「ロー……」
「生きててほしいんだよ……っ」



 どんな形でも命を繋いでほしかった。
 レキの嗚咽がおれの体に響く。
 手離すなんて、考えたこともなかった。



「治せ、ここで」
「治るの、かな……っ?」
「あぁ、必ずな。おれも航海しながら調べる。……治ったらおれ達に追いついてこい」
「っ……うん」



 指を絡めて、キスをして、そんな今まで当たり前のようにしていたことを、一つ一つ確かめる様にしていく。

 また必ず、この腕に戻ってくると信じて。

 

 




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