「……英雄さん、眉間に酷いシワだけど」


 部下のくだらないミスに苛立っていたクロコダイルは、レインベースの賑わいの中、行き交う人々に混じって見えた女に声をかけた。

 女は長い髪を靡かせて振り返ると、珍しいものでも見たというようにクスクスと笑う。

 珍しいとはクロコダイルのセリフで、グランドラインを自由に飛び回るこの女を、一見平和なアラバスタで見かけることなどそうないのだ。


「アラバスタへは?」
「海軍さんのお手伝い。ちょっと立ち寄ったから遊んでたの」
「ハッ…くだらねぇ、政府のイヌの真似事なんてまだやってんのか」
「煩いわねぇ……あなたに言われたくないわ。それでご飯食べてるの!」


 女はぷーっと頬を膨らます。随分と子どもっぽい真似をするんだなと口角を上げた。といっても自分からすればこの女もまだまだ子供だ。

 ただ王下七武海や海軍大将、果ては四皇とも対等に渡り合うことが出来る女なんてそういないとは思うが。


「久々に会ったんだ。夜、付き合えよ」
「お酒だけなら喜んで」
「クハハ……俺に酒で勝てればな」
「じゃあ私が勝ったら、カジノで負けちゃった分チャラにしてくださる?貴方の自室に窺えば良いかしら?」
「気色の悪い喋り方をするんじゃねぇよ」
「結構海軍のお偉い方には好評なんだけどな」


 くだらない駆け引きが愉快だった。
 先程まで苛ついていたのがまるで嘘のようだ。

 今日はとっておきの酒で持って歓迎してやろう。
 女が酒に潰れるわけがないと知りつつも、クロコダイルは晩餐を楽しみにコートを翻した。

 




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