「ごほ…っうぅ……」
「何してんだ」


 執務室に戻れば、いつも愛用している葉巻の匂いが鼻先を掠めた。
 当然この部屋で吸っている本数も半端ない為、匂いが染み付いてるのは仕方ないのだが、目の前にあったのは今まさに煙を上げている葉巻。


「美味しくない」
「勝手に人の開けやがったな」


 女はムリムリ、といって窓を開け放つ。
 途端に入り込んだ風が、今日提出だか何だか、たしぎが騒いでいた書類を部屋中に巻き散らかした。


「はぁ…なんてことしやがる」
「スモーカーが遅いんだもん。早く懸賞金の手続きしてちょうだい」


 行儀悪く椅子に座り、紫煙を上げる葉巻を指先でおもちゃにしている女からそれを奪い取る。
 そのまま背をかがめキスをしようとすれば、女は両手を口の前で重ねて拒否をした。


「だめ。タバコの匂いがする」
「いつものことだろう」
「健康に悪いって言われてるから」
「じゃあ何で吸ったんだ」
「貴方がいつもうまいっていうから。それにもう自由なだけの女じゃ無いの」


 試してみたけどダメだった、そういって女はスモーカーの元からするりと抜け出た。
 最近はことこういった行為を拒むようになった彼女には、男でもできたんだろうか。

 奪った葉巻をそのまま咥えて一息。
 スモーカーは今度はソファで寛ぎだした女を横目で見ながら、机の上に散乱した手配書に判を押すことにした。

 




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