人魚の屋敷
※この話は「人魚伝説」のオマージュです
「高台にある洋館に住んでた異人さんも人魚に肝喰われて死んじまったのよ。…嘘じゃあねェよ。ばぁちゃんだって若い頃にこの目でみてんだ。人魚は年も取らんし死にもしない。人間の肝と生きた魚を好んで食べるんだと。肝喰うた人魚も、まだ何処かの海で泳いでんだろうさ。」
帰郷してあの洋館を見る度に、幼き日に祖母が聴かせてくれた「人魚伝説」を思い出す。子供の私は其れが怖くて堪らないはずなのに、何故か何度も話をせがんだ記憶があった。
この小さな港町に生まれた子供達は海から逃げる事が出来ない。主要道路は海沿いに張られ、学校や商店、郵便局などの施設は全て其の道路に沿って建てられているから、生活の中で海を見ない日は1日としてなかった。
其の洋館は、町の人間たちに「人魚の屋敷」と呼ばれていた。人が住んでいる気配は無く、玄関に鍵も掛かっていない其の場所は、子供の肝試しには丁度良い。「近づいてはいけない」と大人達に言われれば尚の事、入ってみたいという好奇心を強めた。
斯く言う私も、友人に流されて一度だけ入った事があった。中学2年の夏。大型の台風が近付いている為早上がりになった、重く湿った日の事だ。
生茂る薔薇の垣根を抜けて辿り着いた、装飾が彫り込まれた外壁と、ステンドグラスが嵌め込まれた木製のアーチの中心にはアーチと同じ材木の重厚な扉が鎮座している。不躾に黒いアイアンのノブを回して家内へ入り込めば、其処は廃墟にしては整頓された空間が広がっていた。家具はシーツを纏い、暖炉や階段の手摺りは埃を被っていたが、荒れ果てた印象は受けない。恐らく誰かが管理しているのだ。螺旋階段を上り、踊り場の大きな窓から見える庭には、沙羅に梔子、夾竹桃やアナベルなど様々な草花が植えられているがどれも美しく整備され、聖母や天使の白磁の像に見守られた池の周囲に咲き誇っている。
二階は階下よりも綺麗だった。廃墟らしく無いと言った方が正しいかもしれない。埃は一切無く、暖かさを感じた気がした。
私は奇妙に思いながらも、階段を上りきって直ぐの場所にあるドアの前に立ち、ノブに触れようと手を伸ばす。刹那、真鍮のドアノブは私が触れる前にまるで触れるなと言うかの様に音を立てて激しく上下した。好奇心で満たされていた心中は恐怖一色に染まり飛び退いた私は、友人を引っ張り付けて逃げ帰った。
故郷であるこの町はあの頃に比べて少しずつ変わっている。商業施設が出来たり、映画のロケ地になった事で観光客が増え、町全体が活気付いていた。高校卒業と共に東京へ出て、ごく稀にしか帰らない私の目には知らない町にも見える程に。
或る年の初夏。人魚の話をよく聞かせてくれた祖母が、癌で亡くなった。祖母は地方の良家の出であったが、出稼ぎで来ていた祖父と恋に落ちて駆け落ちし勘当され、祖父の故郷であるこの地に永住した。生活が苦しくなる事が分かっていた祖母は、実家から沢山の上等な着物を持てるだけ持って来て其れを売り生活の足しにしようと考えていたが、祖父の仕事が軌道に乗り其れ等は売られる事なく、形見分けで私の物となった。
「高価な着物なんだから大事にね。」
「クローゼットに眠る羽目になるんだから、私が貰ったって仕方が無いのに。」
「おばあちゃんの遺言なんだからそんなこと言わないの。」
葬儀を終えた夜。私は母と妹と共に、居間で酒を飲みながら祖母の思い出話に花を咲かせていた。母は嫁であるが祖母との関係は良好で其の睦まじさは本当の母娘の様であり、父が亡くなった後もこの家で共に暮らしていた。
「着付けも出来ないのよ。」
「結婚式に呼ばれた時に着ればいいよ。美容室で着付けてくれる所もあるし。」
「あんたは良いよね。宝石類を独り占めだもん。」
「まあ孫は私とおねえだけだし、ばあちゃんの持ち物を分けるって言ったら配分は妥当じゃ無いの?」
文句があるわけでは無いが只々不思議だったのだ。きらきらした物が好きだった妹とは違い、着物が好きだと祖母に話した記憶はなく、妹が言う様に留袖ばかりであれば何かに使えると思ったのだと判断できるが、中には祖母の娘時代の着物も入っていたから合点がいかない。
夜も更けて女だけの集まりは解散となり、嘗ての自室にひいた布団の上で先程話していた祖母の話を思い返していた。お嬢様だった筈の彼女は、兎に角悪戯好きで度々私達姉妹を怖がらせては母に叱られていた。赤マントや口裂け女、スリーピーホロウなど和洋様々な都市伝説や怖い話を知っていた彼女が話した事は、全て脳に刻み込まれている。あの人魚の話の様に。
酔い覚ましの為に軽い散歩のつもりで家を出た私は、気がつくとあの高台の麓まで来ていた。自分では気が付かないうちに相当酔っていたのだろう。鬱蒼と生茂る松の木と古いコンクリートの坂道を上り、辿り着いた洋館。様変わりした町の中でもこの高台だけは変わらない。薔薇の垣根は月光に光り夜風に騒めいていた。
蒼白い光が、洋館を陰鬱とした雰囲気で包み込んでいる。庭の池が排水する水音が耳に届く程に、この空間は静かであった。
私は黒いアイアンのノブに手を掛ける。中学生の私がそうした様に。
木々のざわめきとも排水音とも違う疎らな騒音に、ノブに触れた手を離した。驚き振り返れば、ポーチの外は酷い豪雨で時折雷を伴う。あんなに晴れていたのに降り出した雨に、私は帰る事が叶わなくなってしまった。かと言って無人の廃屋で雨宿りするのも気が引けてうんざりと天を仰いだ。
ふと、視線の先にある玄関の照明が光り、暗がりに慣れていた目が眩む。驚いて後退りすると、誰もいない筈の屋敷の内側から扉が開き、中から男性が出てきて私を見下ろしていた。
橙の光に照らされた男性の顔は日本人離れしていて、その瞳は紫色に光っている。
「何か用か。」
「あの、私、人がいるって知らなくて…それで、雨が、」
慌てふためき途切れる言葉の内容を理解したらしい彼は、私の後ろに降り注ぐ雨を見て「ああ。」と声を漏らし、ドアを大きく開け放って私に言った。
「雨が止むまで居ると良い。」
「…良いんですか?」
「オレが、雨降りの真夜中に女性を追い返す男に見えるのか?初夏とは云えその薄着で外に居れば冷えてしまう。早く入れ。」
玄関を開けさせてしまっている以上このまま突っ立っている訳にもいかず、困惑しながらも促されるままにドアを潜り軽く背に触れられながら屋敷へ足を踏み入れた。酔いはすっかり醒めてしまった。
内部は中学生の私が見た屋敷とは様変わりしていた。人が住んでいるのだから当然ではあるが、家具を覆っていたシーツは取り払われ、埃も当然綺麗に掃除されており、廃屋の面影は一切無かった。
通されたリビングルームの家具はエントランスと同じくアンティークで統一されている。目利き腕がある訳では無いが恐らくどれも高級な品なのであろう。マホガニー風のテーブルに置かれたティーセットまでもが高貴に見えた。
「何故何もない高台へ来ていたんだ?」
キッチンからカップを一つ持って来て私の向かいに腰掛けてポットの中の琥珀を注ぎながら彼が問う。
「散歩のつもりで外に出て、いつの間にかここに来ていました。」
「君は地元の人間か?」
「嘗てはそうでした。祖母の葬儀で帰って来ていて…聞きたいのはそんな事じゃないですよね。」
要領を得ない話し方をする私に、空気が揺れて彼が笑ったのが分かる。彼が聞きたいのは「何故此処を知っているのか」という事なのだ。
「あまり気分がいい話ではないと思いますが、此処は人魚の屋敷と呼ばれていて、地元の子供達の肝試しによく使われていたんです。私も一度忍び込んだ事があって…。少し不思議な体験をしたので印象に残っていたんでしょうね」
「人魚の屋敷か。なかなか的を得た名付けだ。」
「どうしてです?」
「この地には人魚の伝説が残っているのだろう。嘗てこの屋敷を建てた人間が人魚によって海に誘われ肝を喰われて殺されたと。」
「ええ…ご存知だったんですね。」
「人魚に喰われた男というのはオレの祖先の事だ。」
オレンジペコーに口をつけながら、彼の人差し指が差した先に視線を送ると其処には一枚の肖像画が掛けられていた。とても古い物に見えるが非常に状態が良く、落ち着いた色彩で描かれた其れは、ブロンドを後ろに撫でつけ、精悍な顔を斜めに向けた、彼を描いたのでは無いかという程に目の前の男にとても良く似た男性の肖像である。
肖像画から彼へ視線を移し瞬きを数回繰り返すと、肖像が纏った古めかしい服を彼が着込んでいる幻覚が見えた気がした。
「曽祖父は或る禁忌を犯し、祖国を追われ家族を置き去りにして旅を続けた後、この地に留まる事を決めたのだと聞いた。なんの因果か、顔の良く似た曽孫のオレが彼の屋敷を譲り受け、この地に暮らしている。」
「…運命というやつでは?」
「宿命と言う方が正しいのかもしれない。」
彼の顔は、窓を打つ雨音も相まり何処か憂いを帯びて見える。名も知らぬ男の家庭の事情を聞くのは少し心苦しくもあり興味もあった。
「そうだ。お邪魔しておいて名乗っていませんでした。名字名前って言います。」
「デイビット・ゼム・ヴォイドと云う。どうぞ寛いでくれ。」
彼基デイビットは空になったカップとティーポットを片付ける為にキッチンへ行き、代わりにグラスとスコッチの瓶を持って戻ってきた。彼は瓶を主張する様に持ち上げゆっくりと瞬きをする。
「付き合ってくれるだろう?」
「はい、勿論。」
酒が入ると無口になると言われる私であるが、彼は他人から話を聞き出すのが上手な様で言うべき事も言わなくて良い事も含めて沢山話をしてしまった気がする。大量に飲んだわけでもないのにアルコールが身体に染み込むのが異常に速かったのを覚えている。
ふと目が覚め上体を起こすと、肩から何かがはらりと落ちる気配がした。どうやらブランデーに酔ってテーブルに伏し眠ってしまっていたようだ。
立ち上がり足元に落ちた何か手に取り確認すれば、其れはシルクのガウンであった。恐らくはデイビットが見かねて掛けてくれたものだろう。Tシャツにスウェットズボンというラフな格好には似つかわしくないガウンを羽織り、リビングの窓辺へ移動した。雨はすっかり上がり、濃紺の夜空には月が陰鬱な顔で私を見下ろしている。窓の脇に設えられた柱時計は「2時30分」を指している。
室内は月明かりでのみ照らされて、照明は全て落とされていた。デイビットの姿が無いのは既に自室で休んでいるからであろう。雨が上がっている以上、私が此処に留まる理由は無い。かといって世話になっておきながら何も言わずに家を出るのも気が引ける。少し考えた後で電話台からメモを拝借し置き手紙を書いてテーブルに載せ、玄関を潜って外へ出る。
此の屋敷には、庭があった。
玄関を出て直ぐ脇にあるぽっかり開いた木々の空間に入って生垣でできた一本道を通り、奥へと進むと開けた庭に出るのだ。
初めて降り立った庭は、夜闇の黒に月光の青が混ざり池と木々の騒めきに満ちていた。例えるならば、迷い込んだ生者を苛み、人外が声をひそめて噂話をしている魔界の地の様に、わたしには見える。沙羅に梔子、夾竹桃やアナベル。植えられている木々はあの時と少しも変わっていない。命の光が差さない夜を、黙って眠り凌いでいた。
じゃぶ
大きな水音がして、驚いたわたしは咄嗟に木陰に身を隠し、音がした池のほとりを見遣る。月に雲が掛かり、闇が一層濃くなった今は暗くて良く見えはしないのだが、そこには確かに誰かが居た。
「誰か」は屈み込んで池に手を入れ、何かを掬い上げては顔の前に持ってきて其れを凝視している。一体「誰」が「何を」しているのだろう。
強い風が屋敷の方から吹き付けて、雲の切れ間に入り込んだ月明かりが差し込む。波が退いていく様に闇を追いやり、その光景を照らし出した。
「誰か」は、この家の主人であるデイビットであった。
彼は闇の中でやった様に、シャツを捲った腕を池に差し込み数回揺らし、「じゃぶ」と音を立てながら引き抜いた手には、真っ赤な金魚が握られていた。
金魚は彼の手から逃れるべく、必死に尾鰭を動かして身を捩っている。デイビットは、金魚を口元へ運び、金魚は咀嚼もなく頭からつるりと飲み込まれ消えていった。
しっかりとこの眼で見ていた筈であるのに、其の光景が信じられない。
「目が覚めたのか。」
物陰で言葉を失う私に気付いていたのか、彼は立ち上がり此方を向いて声を上げた。蹌踉めきその場に崩れ落ちた私に近づいて、月を背負い見下ろしている。
「デイビットと云う男はこの国に流れ着いた流浪の民だった。国を追われ、懸命に働きなんとか資産を立て直してこの町に来た。彼の趣味は、今夜の君の様に心の思うままに夜半に散歩をする事だ。この町の人間は彼を快く思っていなかった様だな。だから顔を見られる事を好まず、全てを隠す夜に出歩いた。」
淡々と紡がれる言葉は彼自身の話である筈なのに何処か他人事で、気味が悪い。
「新月の夜の事だ。彼は気紛れで、何時もは出向かない海辺を灯りを手にして歩いていた。靴や服の裾が濡れるのも厭わず、波打ち際を音を立てて歩いた。闇の中、彼はオレに気が付かない。オレが彼の足首を掴み海に引き込んだ時も、恐らくは流木に足を取られただけだと勘違いしていたのかもしれないな。」
「何を…。デイビットは貴方でしょ…?」
逆光でよく見えない彼の表情は、この世の物とは思えぬ程に歪んでいて、今までに対峙した事のない恐怖を覚えた。
「デイビットはあの夜にオレに喰われて死んでしまったよ。永らく人の肝は口にしていないんだ。今日君が来てくれて本当に良かったよ。」
私は這いずって立ち上がり、元来た道を駆け出した。月明かりでテラテラと光るコンクリート舗装の道路の上を、一心不乱に脇目も降らず走り続け、自宅に飛び込んで布団の中に潜った瞬間に意識を失った。
翌朝の目覚めは最悪であった。脳が乾く不快な感覚に眉を潜めながら階段を降りて居間に入ると朝食の良い香りが鼻を擽り腹が鳴った。先に起きて来ていた妹は椅子に腰掛けて隣の椅子の上に足をのせ携帯を弄っていたが、私が起きて来た事に気がついて足を下ろし画面から顔も上げないままに「おはよう」と声を上げた。
「ねえ。子供の頃におばあちゃんが話してた人魚の話覚えてる?」
其の質問をしたのは妹は地元に就職し、私が出て行った後の屋敷についても知っているかもしれないからだ。
「人魚?…ああ、憶えてるよ。」
「あの洋館の異人さんが食べられちゃったって。」
「そうそう。人魚は肝を喰った人間の姿になれるんだって。私の世代では人魚の館には、肝を喰われた異人さんの姿と名前を奪った人魚が住んでるんだーって噂もあったよ。ま、あそこは私たちが子供の頃から廃墟だし、人魚も海に帰ったんじゃ無いの?」
「え…?」
「えって。門の周りの植物が伸びて絡まって荒れ放題だから敷地内に入れもしないし、今じゃ誰も近寄らないよ。取り壊されるかもって話も出てる位だし。」
そんな筈は無い。私は昨夜あの屋敷を見た。住人を見た。綺麗に整備されたあの庭を見たのだ。妹の言う事が真実なのだとすれば、私が昨日見たあれの説明がつかない。
『人魚は年も取らんし死にもしない。人間の生きた魚を好んで食べるんだと。』
「おねえ?…ちょっと、お姉ちゃんどうしたの?顔真っ青だけど…具合悪いの?」
妹の声は遠い。あの家が廃墟なら、デイビットは一体あそこで何をしていたのか。気になるのであれば今から行って確かめれば良い。けれど私がそうしなかったのは、全て夢の中の出来事だと思い込む事にしたからだ。私は昨日此処で家族と酒を飲み、酔いどれて眠ってしまった。祖母の思い出話をしたからあんな夢を見たのだと。
だから、東京へ戻る為に荷造りしていた際に見つけたシルクのガウンもごみ箱に捨てて帰ったのだ。
数年して私は出産の為に、この地にまた戻って来る事となった。あの日から更に開発が進んだ街並みは、子供の頃に過ごした面影など残っていない。けれどもあの洋館は取り壊される事なく残っている。
何故其れを知っているのかと言えば、私が大きな腹を抱えて人魚の屋敷の目の前に立っているからだ。
私は、東京に戻ってからもあの出来事に囚われ続けた。各地に残る人魚の伝説や、幻覚、言葉による精神的作用など医学的な事まで文字通り取り憑かれた様に調べる日々を過ごしていた。
決着をつける為に、私はここに立っている。人魚の屋敷は、あの雨の夜と全く変わらぬ様子で佇んでいた。
薔薇の垣根は太陽を浴びてつやつやと光り、庭の池からは排水音が確かに聴こえてくる。こんなにも美しい邸宅を見て廃墟だと思う人間は誰ひとりとして居ないだろう。
腹の中で母胎を蹴る我が子を摩りながら、あの夜と同じ様にアイアンのノブに手を掛け扉を開く。軋む扉の向こう側、エントランスには家具もなく、埃に幽けた床だけが広がっていた。
全てはやはり私の夢だったのだ。入り口が整備されていたのはきっと取り壊しの業者が行き来しやすくする為だろう。
馬鹿馬鹿しい。こんな思い違いで数年を無駄にしたのかと思うと自分が情けなく愚かに思えてならない。
ノブから手を離し扉がしまったことを確認してから踵を返す。もう帰ろう。長く外に居ると身体に障る。
腹を撫でながら天を仰げば視界いっぱいに青空が広がり、白い太陽が私を見下ろしていた。一歩足を踏み出した私の背後で、扉が軋みながら開いた音がして凍りついた様に足が止まる。先程きちんと閉めた筈。金属の部品が嵌る音がしたのだから、風か何かで偶然開く訳がない。誰かが内部から開けたのだ。
私の背後にははっきりと誰かの気配が刺さっている。
「君が来てくれて良かった。」
冷や汗が伝う背中に触れたのは、あの夜に私を屋敷へ招き入れた男の手だった。其の声に振り向く勇気は無い。
胎の我が子は、嘗て無い程に羊水を泳ぎ回り、この場所を嫌がるかの如く腹を蹴っていた。