Young gun

 エクストラクラスのガンナーとして召喚されるビリーザキッド、つまり僕の宝具コルトM1877 通称サンダラーの銃声はよく響く。それは現世の媒体じゃ「バンッ」だとか「パーン」なんかで表現されるけれど実際は違う。口で表現するのは意外と難しいけれど地に落ちた雷なんかが一番近い。
 僕が引き金を引けば百発百中で向こうにいる奴らに当たるし、当たったやつは絶命する。たまに生きてるやつもいるけれど窓にぶつかった虫みたいにろくに動けたもんじゃない。

 帳の降りた空は雲一つなく、月もない新月の今日は星星が燦然と輝いていた。こんな裏路地を、ましてや夜更けにうろつくなんてどうせ真面な人間じゃない。ここらを徘徊し僕のマスターを探している奴らを掃討するのが僕の仕事だ。僕相手に防弾服を着てこない(着たって防げやしないんだけど)ところを見ると、敵はマスターが所有するサーヴァントを把握していないのだろう。ひどく間抜けで、僕にポーカーに負けたギャングの尻の穴に火炎瓶を突っ込んだときより笑えた。

「魔力反応がある。このあたりのはずだ」
「おかしいな…既に圏内に入っている」
「魔術障壁かなに…」

 引き金を引けば雷鳴が轟き、グズはその場に倒れこむ。敵対は残り4体。
間抜けな奴から死んでいく。それはいつの時代、何処の戦場でもそうだ。弱くたって頭を巡らせれば生き残る可能性はあるが、間抜けなバカは運が良くなきゃすぐに死ぬ。僕の弾丸が間抜けの頭を捉えてその脳漿をぶちまける。暗くてよく見えないが、きっと醜く臭いはずだ。

「て、敵襲だ…!」
2
「スナイパーか?!」
3
「銃声は近かったぞ!!」
4
「クソッたれどこにいやがる!!」

 震える銃口を狼狽狼狽させても僕はいない。上下の歯が当たってカタカタとカスタネットみたいな軽快な音を立てている。

「腰抜け!!姿を見せろ!!」
「こんばんは。僕がお探しの腰抜さ。そんなに震えてどうした?ママに叱られたのか?」 

 愚かにも僕に銃口を向けたダサい自動拳銃を握る右手と左足を撃ち抜いて、地に落ちた拳銃を撃って遠ざける。さっさと殺してしまえばすぐにでも帰ることが出来るのだけど、一人だけ生かしておいて雇い主を聞くのが夜警の決まりだ。

「なあ色男。君に2、3聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
「テメー餓鬼か…?こんな事してタダで済むと…」

 耳を吹っ飛ばしたと同時に鳴ったでかい銃声はマスターが張った障壁の敷地内から外には出ない。この汚い叫び声も当然僕しか聞いていない。

「そっくりそのまま返すよクソッたれ。答えれば帰れるよ。まず一つ目だ。誰の差し金で来たのか5秒で答えろ」

 痛みに戦き怯えきって小便を漏らす情けない男に向かって、僕は革手袋を嵌めた手を突き出して指を1本ずつ折り数えていく。

「3」
「いっ言う!言うから…!」
「2」
「四方田って奴だッ!ここの女を連れてこいって…っ!!」
「…ふーん。ヨモダかぁ。知らないな。これはマスターに報告だ。よし、質問はあと一つだ。いいね?3秒で答えろ。答えられなければお前はここでくたばる」
「何でも言うッ!!」
「君たち以外にここを攻めんとする奴らはいると思うかい?」
「知らねえ…知らねえよ!!俺らは雇われただけなんだ!マジだって!アマァ連れてこいって言われただけで…」

 放って置けばきっとこいつは九官鳥みたいに延々としゃべり続ける。それが命乞いや神への祈りと同意だと思っているからだ。

「うるさいな…。分かったから喚くのはよせよ。よォし、約束通り返してやるよ」
「ほんと──」
「ホントさ!返してやるよ。その命を神にね」

 今夜幾つ目の銃声かは、数えようとするだけで億劫になる。穴の空いた酒樽のように男の頭からは血液がどくどくと流れ出し、涙と汗にまみれた汚い顔をしとど濡らした。僕はと言うと至近距離で発砲したため見事に返り血を浴び、腥い香りが鼻を掠める。

「あー不味ったな」

 拠点という名のマスターが眠る家に戻り、血と硝煙の香りがする上着を脱いで脱衣所の扉を開けようとした刹那、奥にある寝室から名を呼ぶ声が聞こえた。

「ガンナー?」

 闇の中から現れたのはマスターだった。幸い濃厚な夜の青が僕の姿を隠していたから返り血は見つかっていない様子で、僕は慌てて顔を上着で拭ってからいつもの笑顔で彼女に向き直る。

「やあマスター」
「銃声がしたけど…また襲撃があったのね」
「ただの人間だったよ。ヨモダって奴に雇われたらしい。知ってるかい?」

「知らない。でもそれは私たちの情報が漏れ出ているって事だよね。…ガンナー、怪我は?」
「怪我はしてない。でもちょっと疲れたかな。…魔力を分けてくれないか」

 くたりと笑った僕に向けておずおずと両手伸ばして彼女は唇を寄せた。柔らかな甘い香りがする髪の毛ごと頭を押さえて反対の腕で身体をぎゅうと抱き込む。僕のマスターは、聖杯戦争をよく理解していなかったし、通常の魔術師なら行えて当然の魔力供給すらわざわざ粘膜を介して行わなくてはいけない半人前だ。彼女はただ生きていたいだけだと言った。彼女の祖母は優秀な魔術師で、祖母の悲願を遂げるために魔術師として厳しく育てられたらしい。当初はぬるま湯に浸かったつまらない人間だと思っていたけれど、彼女に触れるごとに僕は運命に巻き込まれて生死を賭けた戦いに身を投じてなおただ生きたいと願う、口づけすらした事が無かった初心で凡庸で弱いマスターを何とか生かしたいと思った。

 唇を離した彼女の瞳は、息苦しさからか眠っていたからかはわからないが涙ぐんでいてまるで蕩け出した飴玉のようだ。睫毛を瞬かせるマスターの前髪をあげて口づけをして手の差し伸べれば、少しだけ恥ずかしそうにしてから自分の小さな手を僕の黒革の手袋へ重ねる。その手をとってベッドに一緒に潜り込んでしまおうと思ったけれど、今の自分の服の状態をみれば、大人しく彼女を寝かしつけることに専念するしか選択肢はなかった。