※少し成長した降谷三兄妹
※大学生妹と社会人双子
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お風呂は偉大だ。
ゆっくりと浸かれば癒されるし疲れも取れるしいい事尽くし。
入浴剤だって沢山種類もあるし、何を入れるか選ぶのも楽しい。

「入浴剤って白いやつだと掃除大変だけど、一番好きなの白いやつなんだよね」

手に取ったそれを見せれば、透兄さんはじゃあ買おうか。とあっさりとカゴにいれてしまった。

「いいの?」
「だって入りたいんだろう?」
「…そうだけど、零兄さん怒らないかな?」

兄さんたちは昔から私に選ばせてくれる事が多いけれど、透兄さんは特に無条件で何でも買ってくれたり言う事聞いてくれたりと私を甘やかしてくれるが、それが行き過ぎるといつも零兄さんに甘やかし過ぎだと怒られて居る。
零兄さんはご褒美として買ってくれたりはするけれど、透兄さんみたいになんでも言うことを聞くような甘やかし方はしない。
子供の教育方針で揉める夫婦みたいだと唯くんに言ったら、絶対にあの二人には言うなよと釘を刺されたのは懐かしい話だ。

「零のことなんて気にしなくていいよ。僕もこの入浴剤好きだし」
「…そういうところが透兄さんのイケメンなところなんだろうね」
「惚れてもいいんだよ?」
「それはちょっと…」

ちぇ。なんてわざとらしく言う様もあざといのだからこの兄は凄い。
同じ顔でもこんなにも違うんだから中身って大切だ。
透兄さんはあざとくてかわいい系だけど、零兄さんは男前でかっこいい感じだ。

「そうだ、家じゃ入れないようなお風呂に入れるところに行こうか」
「温泉?」
「もっといいところ」
「泡風呂?」
「ジャグジー付き」
「え、何それ凄い!」
「行きたい?」
「行きたい!」

この辺りで気づくべきだったんだろうけど、普通にお風呂のことしか考えてなかったせいで全く気付かなかった。

「…兄さんの嘘つき!!」

連れてこられたのはラブホテルでした。
おかしいよね?
っていうか妹連れて入るという発想がない。普通はない。
…あれ、私のお兄ちゃん普通じゃなかったな?

「酷いなぁ、嘘はついてないよ」

ほら、ジャグジー。と笑って浴槽を指差した透兄さんに納得しかけて首を振った。
騙されるな、この流れはいつもの丸め込むやつだ。それだけはマズイ。
っていうかなんで私もホイホイ付いてきてしまったんだろうね。

「っていうかお風呂二個ついてるとことか初めてきた…」

露天風呂と内風呂の二つ備えって最近のラブホってどうなってんの?いや、女子会で一回行った時も思ったけど、もうラブホの域を越えている。
ラブホで女子会プランとかも普通にある時代だしおかしくは無いのか。と考えていると、いつの間にか透兄さんに抱きしめられていた。

「兄さん?」
「雫は誰と来たのかな?お兄ちゃん初耳だからお風呂でも入りながらじっくり聞かせてくれるよね」

目が、笑っていなかった。

「ちが…っ、そういうのじゃなくて!」
「おかしいなぁ、僕も零も男と二人きりになったら駄目って言っていなかったかな」
「そうだけど、来たの一回だけで、ていうかこの状況も大概おかしいよね!?」

とにかく兄さんの腕から抜け出そうと身をよじるが、びくともしない。

「女子会で一回来た事があるだけだよ!」
「へぇ、聞いてないんだけど?」
「い、いってないもん」

絶対いい顔しないの分かってたし、過保護な兄達には内緒にしといた方がいいって一緒に行った友人にも言われていただけで、別にわざと秘密にしていたわけじゃない。

「別に嘘ついたわけじゃないし、怒らなくてもいいじゃん…!」
「怒ってないよ」
「怒ってるよ…!」

笑ってるけど絶対怒ってる。
こういう時はどうすればいいのだろう。
必死に頭を巡らせると、ふと思い出したのは唯くんの言葉だった。
いいか雫、お前の兄ちゃんたちは良くも悪くもお前が大好きだ。
だから上手い事煽てとけば多少はなんとかなるさ。あ、上目遣いと甘えるように言うのがポイントな。
流石私の避難所、唯くんである。
ありがとう唯くん、私頑張るよ。
そしてこの危機を乗り越えたら必ず唯くんにお礼を言いに行くんだ。
…決して死亡フラグなんかじゃない。違うったら違う。

「お、男の人と来るのは透兄さんが初めてだもん」

何故こんなこっぱずかしい台詞を吐いているかは謎だけど、これも全て無事家に帰るためである。

「…だから怒らないで」

上目遣いは流石に恥ずかしいので体を反転させて抱きついて、そのまま胸に顔を埋めて呟いた。
意識してやるととても恥ずかしいんだけどなんだこれ。

「…しょうがないなぁ」

ぽん、と頭に置かれた手に顔をあげれば、にっこり笑ったままの兄さんが私を見下ろしていた。

「なんて言うと思った?唯になんか言われたんだろうけど、お兄ちゃん騙そうとするのは良くないなぁ」

ゆ、唯くんのうそつきー!!!
全然なんとかならなかったじゃん!!

「じゃあ一緒にお風呂入ろうか」

拒否権なんて最初からなかったんだ。


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「…み、見るの駄目!」
「どうして?」
「っ、恥ずかしいからやだ!」

結局浴室に居るわけですが、体を洗って居る間湯船に浸かる透兄さんから向けられる視線は居心地がわるい。

「洗ってあげようか?」
「いい!自分でできるよ!」
「昔は一緒にお風呂入っていたのになぁ」

そんな幼少期の話を今持ち込まれても困る。
泡を全て流し終われば、おいで。と手招かれるまま、兄と同じ浴槽に体を沈めていく。

「ち、近い…!」
「えー?」
「待って待って!駄目だって!抱きしめるのだめ!」
「どうして?」

裸だからだよ!!
耳元でくすくすと笑うのが聞こえてきてもうどうでもよくなった。
これ知ったら零兄さん、怒るだろうなぁ。
…怒られるの、やだなぁ。
後ろから抱きしめるように腕を回されて、ぴたりとくっつけられた頬。

「気持ちいい?」
「…一人だったら尚よかったかな」
「そんな事言わないでよ」

諦めて背を預ければ、するすると肌を撫でるようにお腹から腰を撫でられた。

「ちょ…っ、変なとこ触るのだめ!」
「変?どこかな」
「っ、セクハラ!セクハラだ!お触り禁止!!」

肌を指でなぞるようにされ、あまりの擽ったさに立とうとすれば、逃さないとでも言うように抱きしめられて湯船へと戻されてしまう。

「…もうやだぁ…」
「どうして?」
「恥ずかしいから!」
「雫は僕とお風呂に入るの恥ずかしいんだ?」
「恥ずかしいよ!」

いくら兄妹だからといってももう子供じゃないんだからそりゃ恥ずかしい。
しかも透兄さんは変なとこ触って来るから余計嫌だ。

「じゃあ零と入るのは?」
「えー…零兄さんは多分平気かも」

変なとこ触ってこないし、何してくるか分からない透兄さんと比べて零兄さんは安心感がある。

「そっか、ならいいかな」

何故かご機嫌になった透兄さんを不思議に思いながらも、機嫌がいいのならばいいに越したことはないだろう。


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「おかえり」

あの後無事にホテルを出て家に帰ると、笑顔で仁王立ちをした零兄さんに出迎えられた。
青筋浮かんでるように見えるのは私の気のせいではない。
思わず繋いだままの透兄さんの手を引いてしまった。

「随分と楽しんできたようだな」

ひっ、怒ってらっしゃる…!

「そんな怖い顔をするから雫に嫌われるんですよ」
「嫌われてない」
「雫は僕の方がいいんだよね」

やめて、今そう言う冗談言ってる空気じゃないからやめて透兄さん。
っていうかそんなこと一言もいってないし、零兄さんのことも嫌いじゃない。

「わ、わたしゆいくんのとこ、いってくるね…!」
「雫、まずは俺に話さなきゃいけない事があるだろう?」

右手は透兄さんと繋いだまま、左手は零兄さんに掴まれて完全に逃げ場を失った私は結局洗いざらい事の詳細を話すはめになった。
勿論怒られた。
…でも私悪くないよね?
今夜は零兄さんとお風呂に入る事を条件に最後は許してもらったけど、前言撤回。
零兄さんも全く安心できませんでした。

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後日談。

「っていう事があったんだけどね、どうすればいいんだろうね」
「…諦めたらいいんじゃないか?」

今日も今日とて兄弟喧嘩に勤しむ双子から避難してきた雫はどこか疲れて居るように見えた。
そんな姿に食べられるのも時間の問題だな。とは流石に言えなかった。
…むしろこれ食べられた後じゃないよな?大丈夫だよな?

「あ、そう言えば前に唯くんに教わったやつやったけど、全然効かなかった」
「前?…ああ、あの甘えときゃなんとかなるってやつか?」

そういえば言ったな、うん、言った。

「透兄さん普通に見抜いてたからね。しかも唯くんに教わったとこまで」

透にやったのか。
まぁ透はそういう所鋭いし、分かっていても許してしまうゼロと比べたら相手にするのは難しいだろう。
透は雫に甘過ぎると言ってるが、この辺に関してはゼロの方が甘い。
正直透に効くとはあまり思ってなかったし。
普段の言動からしてもベタ甘な透とちゃんと叱れるゼロとじゃ透の方がチョロそうだが、実のところゼロの方がチョロい。
冗談とわかっていても可愛い妹の口から嫌いと出るだけで本気で凹む男だからな、あいつ。
透がベタベタに甘やかす分、ゼロがしっかりしているように見えるけど、あいつも本当はベタベタに甘やかしたいだろうしな。

「ゼロだったら効果覿面だから零兄さん専用にするんだな」
「先に言ってよ!」
「悪かったって。怒ると折角の可愛い顔が台無しだぞ?」
「そうやってまた話そらす!!」

これ以上余計なこと言ったら俺があの双子、特にゼロに怒られるんだから仕方ない。
あいつ結構本気で殴ってくるからな。お前の兄ちゃんあんな顔して筋肉ゴリラだぞ。

「ほら、プリン食べるか?」
「…たべる」

なんだかんだで一番チョロいのはこの妹なんだろう。
あー。と開いた小さな口に放り込めば、たちまち幸せそうな笑みを浮かべるのだから可愛いもんだ。
この直ぐ後、乗り込んできた双子がどっちが妹に食べさせるかで揉めるのであった。
ほんと、仲良いなお前ら。






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