※組織壊滅後


兄さんが私に仕事の話をする事はない。
守秘義務とかそういうのもあるだろうし、私も自ら聞くような事はしない。
だから今、兄さんがどんな立場におかれてどんな状況にいるのかも知らない。
直接私が何かをできるわけでもない。
でも一つだけ、私にも出来ることがある。

「大丈夫だよ」

背中から抱きしめるように腕を回して、いつも兄が私にしてくれるように語りかけた。

「大丈夫。兄さんなら大丈夫だよ」

私にできるのは、兄さんの帰りを待つことと、こうして抱きしめる事だ。
大丈夫、大丈夫。
小さく息を吐いてから頬を寄せるようにくっつけて、ありがとう。と呟く声は落ち着いていた。

「こうしてると落ち着くね」
「…ああ、雫の体温は落ち着く」
「同じだね」

私も兄さんの体温を感じると落ち着く。
暖かくて、心地いい体温は、一人じゃない、兄さんが居るのだと安心できる。
私が求める温もりが兄さんだけなのと同じで、兄さんもそうだったらいいと思う。

「今関わってる仕事が終わったら休みも取れそうだから、何処か行こうか」
「なんか死亡フラグっぽいから嫌だなぁ」
「縁起でもないこと言うなよ」
「だって死亡フラグのテンプレみたいなこと言うから」
「じゃあ行くのやめるか?」
「行く!絶対行く!」

兄さんとなら何処へ行っても幸せなんだろう。

「何処がいい?」
「温泉とか?」
「いいな。泊まりで行こうか」
「やった!兄さんと泊まりで温泉かぁ…一緒に入る?」
「勿論」
「じゃあ背中流してあげる!いつも甘えさせてくれるお礼」
「それ以上はしてくれないのか?」
「何考えてるかは敢えて聞かないでおくね」

聞いたら拒否権なくなりそうだし。
…と言っても、どうせ好きにしてって言ってしまう未来が見えるのは仕方ない。

「元気出た?」
「あとはキスしてくれたら完璧」
「冗談言えるなら平気だね」

離れようとする腕を掴む兄はキスをするまで離す気はないらしい。

「…お預けか?」
「ここに欲しかったら帰って来た時にしてあげる」

頬に唇を寄せた私に不満げな声を上げた兄さんの唇を指でなぞりながら言えば、それだけで済むと思うなよ。と恐ろしい言葉が返ってきた。
…煽るような真似しなきゃよかったな。
別にそんなつもりで言った訳じゃないけど、本人は帰って来た時のことを考えているに違いない。

「いいよ、怪我なく帰って来たらご褒美あげる」
「なら、傷一つ負わずに帰らなくちゃな」
「もちろん」

だからちゃんと帰って来てね。という思いを込めながら、もう一度その頬に口付けた。







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