私の兄はマッチョだ。
…細マッチョ…?いやでも結構ついてるしぶっちゃけ凶器だと思うからやっぱりマッチョ。

「すごいね」

上半身裸のその腹筋に触れれば、そうか?と返ってきた。

「そうだよ」

肩に掛かるタオルに手を伸ばせば、言わずともソファーに腰掛ける。
おかげで手が届きやすくなり、わしゃわしゃとその綺麗な髪を拭けば雑。と文句を言われてしまった。

「兄さんってほんと綺麗だね」

褐色の肌に青みがかった瞳。
色素の薄い髪の毛。
そのどれもが私とは一つも共通するところは無くて、整った一つ一つのパーツのバランスの良さが一層その整った外見を作り上げている。
童顔なのにちゃんと大人の男の人で、肩幅は広いし筋肉だってついている。
こんな風に兄を意識するようになってどれくらいが経ったのだろう。
それでも昔から思う事は同じだ。

「…うん、私の兄さんはやっぱりかっこいい」

でも、昔思ってたかっこいいと今思うかっこいいの意味はちょっとだけ変わったかな?
ソファーに座る兄とその前に立つ私。
普段は見上げるその顔をまじまじと見下ろしながら呟けば、こちらに伸びてくるのはその逞しい二本の腕。

「俺の雫はやっぱり可愛いな」
「なにそれ、私の真似?」
「いや?俺の本心」

そのまま逞しい腕の中に閉じ込められて笑えば、兄もまた同じように笑った。
ひたいをくっつけあって笑って、言葉を紡ぐたびに感じる吐息。

「だいすき」

その口を塞いで、それから笑えば、ぽかぽかと全身が温まるのを感じた。
普段は冷たい指先も、兄の側にいる時はいつだって温かくなる。
体だけじゃない、心も暖まる。

「きっとこういうのを幸せって言うんだろうね」

戯れるようにソファーに押し倒す兄さんにそう告げれば、とろりと蜂蜜みたいに甘くとろけた瞳がこれまた甘い声で同意するのだ。

「もっと幸せになること、しようか?」
「えー?」
「嫌か?」
「ふふっ、嫌そうに見える?」
「いや?全く」

そう言ってかぷりと鎖骨に食いつかれて、このまま美味しくいただかれてしまうのも悪くないと思った。

「うん、全然嫌じゃない。嫌じゃないから、美味しく食べてくれますか?私だけの狼さん」
「えぇ、勿論」

お風呂上がりの湿った髪を撫でながら、こんなに綺麗でかっこいい狼に食べられるなら本望だ。なんて、ちょっと寒すぎるかな?







戻る
top