目が合った。
そう、たったそれだけなのに、私の直感が訴えかけている。
これヤバいやつだ。
ニコリと愛らしく笑ったコナンくんに、脳内で警報が鳴り響く。
とりあえず彼の保護者的役割の蘭ちゃんに助けを求めようとするものの、視界の端に捉えた彼はあの摩訶不思議な腕時計を此方に向けていたわけで、あ、これ知ってるぞ、なんかよく事件解決時に毛利さんが受けてるやつじゃね?知ってる。お姉さん見たことあるよそれ。
知ってたからこそ確信してしまった。
この子絶対私に同じ事やる気だ…!!!
思ったところで秒速で繰り出される何かを避けれるわけもなく、こうして私はチクリと首筋目掛けてつきささった何かによって意識を飛ばしましたとさ。
…くそう、覚えてろよくそがきめぇ。
やっぱり彼は小学生じゃない。絶対違う。

「で、お姉さんに言う事あるよねぇ?」

コナンくんとお話があるからと蘭ちゃんたちには聞こえない場所まで移動をし、えへへ。と笑って誤魔化そうとする彼を見下ろした。

「ごめんね、雫おねーさん?」
「くっそう、あざとい真似を…!!」

それで許されると思うなよ!?
目が覚めたら好奇の目にさらされて、すごーい雫さんどうしたの!?と園子ちゃんには言われ、蘭ちゃんには大丈夫ですか?と体調を心配された。
警察関係者の方には感謝された。
どれもこれも自分の記憶がない間の出来事である。
なにそれ怖すぎる。

「だって小五郎のおじさんいなかったし…」
「だからって私を選ぶかなぁ」
「だって利用できるものは利用しろって言ったのは雫さんでしょ?」

こ の く そ が き 。
流石の私も青筋浮かべたくなるくらいあざとい顔して言ってくれましたよ。

「君ねぇ…いや、もういいや。今回のことは見逃してあげるから、その代わりもう二度としないでね」
「うん、ありがとう雫おねーさんっ!」

…あっざといなぁ。
この子は顔が整っているだけに余計あざとさが増す。
安室透はおいといて、幼少期の兄さんが彼のようなあざとい子供でなかったのは本当によかったと思った。
兄さん子供の頃から整った顔してたし、あの顔でコナンくんとか安室透のようなあざとさを振りまいていたら妹として大分いたたまれない。

「ねぇ、このこと安室さんには内緒にして欲しいんだ」
「…まぁ、だって君の中で私は共犯者だろうし?」
「あの時のこと覚えてたんだ」
「人をなんだと思ってるの?」
「だって雫さん面倒ごと嫌そうだから」
「巻き込んだ張本人がそれ言う?」

まったくもって失礼な話だ。
共犯者だなんて言ったのは彼の方なのに。

「じゃあ安室さんには…」
「言わないよ。でも兄さんに嘘はつかない。だから私にできるのはせいぜい誤魔化すことくらいだよ」

まぁうちの兄さん鋭いから、君が普通の小学生じゃないことだけはハッキリ分かってるだろうけどね。とは言わないでおいた。
どうせ兄さんとコナンくんも私の知らない繋がりがあるかもしれないし。
大体この子は危ない事に首を突っ込みすぎだと思う。
事件に巻き込まれたという話はもう何度も耳にした。どれもこれも彼以外からだけど。

「君、無茶しがちなところがあるから、ちゃんと大人に頼りなよ」

勿論君が信用できる人をね。と続ければ、ぱちぱちとその大きな瞳を瞬かせてから小さく頷いた。
…本当に分かってるかお姉さん心配だなー?

「喫茶店のお兄さんとか個人的におすすめなんだけど」
「ブラコンなのはよく分かったよ」
「ねぇ、人の話ちゃんと聞いて?あと安室透は違うからね。ここ重要だから。私の兄さんはあざとさ全開じゃない」
「…そんなに嫌そうな顔しなくても」

わかっててやってるのがね、最高に性格悪いと思うんだよね。
仕事だからやってるんだろうけど、安室透の表だけ見たらやっぱり私の苦手なタイプだ。

「くれぐれも危ない事には首突っ込まないようにね」
「はぁい」
「…わかってないでしょ。兎に角、君を心配する人がいるって事、絶対に忘れちゃ駄目だよ」

その小さな体でするには、彼の無茶はいささか度合いが大きすぎる。

「…無茶する方はこっちの気持ちなんて知りもしないんだろうなあ」

保護者の元へと駆けていく小さな背中に重ねたのは、いつも見ていた大きな背中。

「ポアロ、寄ってから帰るか」

無性にあの人の顔が見たくなった。
降谷零は居ないけれど、それでもいい。
安室透でもいい。
ちゃんと会えるのなら、そこにいるのなら、生きているのなら、それでいい。
お帰りなさいを言える日が必ず来る事を私はちゃんと知っている。
だから、それまでは安室透でも我慢してあげよう。

「…やっぱりブラコンだったか」

いつだってこの頭を埋め尽くすのはあの人の事ばかり。
降谷雫は降谷零が居たから存在するようなものだ。
きっと、兄さんが居なければ私はまともに息すらできないのだろう。






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