何故か降谷零が三人に分裂した話
バーボンと零は妹を呼び捨て
安室はさん付けで呼んでいる。
※なんでもありのギャグ時空
そんな小話の詰め合わせ
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「ねぇちょっとまって離して絶対兄さんじゃないでしょ!ねぇバーボンの方でしょ!ちょっ、どこ触って…!?」
リビングから聴こえてきた声に顔を覗かせれば、そこには雫さんに絡むバーボンの姿があった。
零が見たら確実に荒れるだろうその光景も、本人は仕事で不在。
となればバーボンの好きにされるのは間違いない。
「楽しそうなことしてますね。僕も混ぜてくださいよ」
「来たな安室透!どうぞお帰りください!!」
「やだなぁ、僕の家でもあるじゃないですか」
「いや私の家ですけど!?」
「雫が居るところが僕らの家ですから。ねぇ安室透」
「バーボンの言う通り、僕らは雫さんの居るところが帰る場所なんです」
「綺麗にまとめようとしてるけど、二人の帰る場所は降谷零のところです!」
ハウス!とまるで犬に命令するように声を上げた彼女に僕らは笑みを浮かべるだけ。
そんなムキになる姿も可愛らしい。
「まぁまぁそんなこといわずに」
「僕らだって元は貴女の大好きな降谷零なんですから」
どうして彼の演じる人格として存在していた僕らが分裂したかは分からないけど、元は降谷零という一人の人間であった事は間違いない。
僕らの記憶は降谷零、安室透、バーボン。
この三つを共有している。
だから降谷零として降谷雫を愛する気持ちも同じだ。
「そうだ、ケーキ作りましょうか?雫さんの好きなクリームと苺が沢山乗ったやつ」
「え、ほんと?」
食いついた。
考えてる事はバーボンと同じらしい。
流石同じ人格を共有したもの同士と言ったところか。
こういう食べ物にすぐ吊られて僕らのいいようにされるところが零に怒られるのに、それでも懲りずにケーキの一言に瞳を輝かせる単純さは愛おしい。
「それじゃあみんなで甘いケーキを食べましょうか」
まぁ僕らにとっての甘いケーキが誰かなんて、言わずとも分かるでしょう?
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「なんなの?バーボンは暇なの?遭遇率おかしくない?ねぇ聞いてる?だから抱きつくのやめて!?」
じりじりと後ずさる体に腕を伸ばせば、きゃんきゃん吠える子犬のように喚く雫。
そんな細い腕で僕を引きはがせるわけもないのに、必死に腕を剥がそうと抵抗する姿が可愛くて堪らない。
尚更いじめたくなるのはその愛しさ故だろうか。
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
「っひ、耳元で囁くのやめてくれません!?」
普段は純粋さを思い描くようなその白い肌を微かに赤く染めてこちらを見上げる顔。
だから余計に苛めたくなるという感情はきっと本人には理解できないのだろう。
だからこうして今も抵抗をやめないのだろうし。
「零はいいのに僕は駄目なんですか?」
「っ、だからぁ!変な触り方やめてもらえます!?」
「おっと、つい。このままいけるかなって」
「流されてたまるか!」
「つれないなぁ」
おいしいところは全部零がもっていくのだろう。
僕らが素肌に触れようとすると頑なにそれを許さないガードの固さは零のものだからだろう。
私が好きなのは降谷零なのだと、安室透の皮を被った零に言っていたのを覚えている。
それはまだ僕らが分裂する前の話。
「雫を愛する気持ちは同じなのに、雫が愛する気持ちは同じじゃないのが僕は堪らなく悔しいと思う時がある」
「じゃあ早く戻らないとね」
「僕が消えても雫は悲しまないんだろうね」
「そういうこと言うならその手つきやめようか?」
言葉と行動があってない。と服の下に差し込もうとした手を叩かれてしまった。
「そのガードをどうやって崩して行こうか考えるのも楽しみの一つなので今日はこれで諦めてあげますよ」
「バーボンはドSかな?そういうのいいのでお帰りください」
「貴女が望むならどちらにも?」
「にーさーん!!!この人早く回収して!!」
いっそ安室透でもいいから!!と叫ぶ雫。
零はすぐに僕らを引き剥がすけど、安室透は嬉々として混ざりにくることを分かっていないのだろうか。
「じゃあ次は貴女ご指名の安室透と来ますね」
「こなくていいです!!」
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色気全開で迫るのはバーボン
感じの良い笑顔で迫るのは安室透
どちらも言葉が通じない。
それを引っぺがすのが降谷零。
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「うわ、別に来なくてもよかったんですよ?」
「雫の事は僕らで見るので零はどうぞお帰りください」
あからさまに嫌そうな顔をする安室透に鼻で笑って追い払うような仕草をするバーボン。
お前ら俺から生まれた人格だよな?何故俺が一番邪険にされなくてはならないんだ。
というか安室透は人当たりのいい青年の筈だろ。なんだその顔。安室透でそんな顔をした覚えはない。
「まぁ僕らにとっては零が赤井みたいなものですし」
「ちょっと待て、よりにもよって赤井だと?訂正を求める」
「却下します。雫は自分の物だと思って高をくくっているとその内足元すくわれますよ」
「男の嫉妬は醜いぞバーボン」
「ということで醜い争いを可愛い妹に見せるわけにはいかないので僕はこれで失礼します」
「待て、雫は置いていけ」
何ちゃっかり連れて行こうとしてるんだお前。
…そうだな、安室透はそういうところあるよな、よく知ってる。結局は俺だ。
眠る雫を抱き上げて寝室に向かおうとするその顔は何か問題でも?と笑いながら言っているようだった。
「ん…なに、うるさい…」
「ほら、零が騒ぐから起きちゃったじゃないですか」
「お前は自分に非があるとは思わないのか…?」
「だって僕、安室透は完璧ですし?」
「うわ、性格わる…」
「そんな酷いことを言う口は塞いじゃおうかなぁ」
「私の知ってる安室透はそんなこと言わなかったんですが」
「今の僕は孤立した存在ですからそういうこともありますよ」
「まってまって、兄さんがいい!降谷零がいい!!」
助けてにーさん!と涙目でこちらに助けを求める雫。
ほら見たことか。
いつだって雫が求めるのは降谷零と決まっている。
「「ドヤ顔がうざい」」
「なんとでも言え」
同時に発せられた言葉は負け犬の遠吠えも同然だ。
「それじゃあ兄ちゃんと一緒に寝ようか」
「おっと、これは降谷零もダメなパターンかもしれない。ちょっと用事思い出したので離してください」
「離すわけないだろ」
誰かー!と叫ぶ口を塞いでやれば、背後から聞こえたブーイング。
「残念だったな、降谷雫は降谷零しか求めないんだ」
二人分の舌打ちには知らぬふりをして、寝室の扉を閉めた。
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「僕のいいところを一つだけでもいいので言ってください」
そう言えば雫さんは面倒そうな顔をして一言告げた。
「顔」
テレビに向けられた顔は大好きなヒーローに夢中なのだろう。
「それじゃあバーボンも零も同じじゃないですか」
「まぁ同じ顔だからね」
零には甘える彼女は僕にはずっとこんな調子だ。
勿論バーボンも同じ扱いを受けている。
「むしろある?安室透のいいところ」
「これでも結構傷つくんですが」
「ヘラヘラしといてよく言うよ」
ずっとテレビに向けられていた顔が漸く此方を振り返った。
画面には何度も彼女がかっこいい!と声を上げるヒーローの見せ場が繰り広げられていた。
「いいんですか?貴女の好きなレッドの見せ場ですけど」
「安室透の顔の方がいいからつい振り向いちゃったよ」
折角の見せ場だったのになぁ。とわざとらしく呟いて笑った彼女。
「…ずるいなぁ」
「安室透がそれ言う?」
「貴女の一番になれないのは分かりきってるのに、僕はそんな貴女が好きなんです」
「困ったなぁ」
「困りましたね。だから責任取ってください」
「じゃあこの膝で手を打ちましょう!」
ぽんぽんと誘うように叩かれた膝。
「貴女の一番は零なのにそうやって中途半端に僕を甘やかす貴女はずるい」
「嫌?」
「いいえ、勿論そんなところも好きですよ」
それはよかった。
くすくすと笑い混じりに呟きながら僕の髪を梳くように撫でる指先は優しくて、やっぱり彼女はずるいと思った。
きっと僕らはどんな彼女も好きなんだ。
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甘えるのは安室透。
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