それは女子高生二人の言葉から始まった。
「安室さんって細いわよねぇ」
「確かに、袖捲りしてる時の腕とかちゃんと筋肉ついてるっぽいけど、線が細いって言うのかな?」
雫さんもそう思いません?と他のテーブルで接客をする安室透を見ながら降ってくる蘭ちゃんと園子ちゃん。
「確かにぱっと見は細身だけど、あの人着痩せするタイプだから筋肉結構付いてるよ」
兄さんは着痩せするタイプだ。
蘭ちゃんが言っていたように袖をまくったその下から見える腕にはしっかりと筋肉がついている。
無駄のない綺麗な付き方だけど、線が細いと言うよりあれは着痩せするタイプだ。
「肩幅もちゃんとあるし、背中にも筋肉ついてるし…うん、やっぱり着痩せするタイプだよ」
だから言うほど細身では…と言葉を続けようとして気がついた。
目の前の女子高生二人が顔を赤く染めていることに。
…待った、これは完全に勘違いしてるな。
園子ちゃんに至ってはニヤニヤしている辺り、絶対に勘違いしてる。
「ってことはそんな服の下を知っちゃってるような関係ってわけだ」
「やめて、彼のファンからの視線が痛い。やめて!!」
ここで否定しておかないともうポアロに来れなくなるから!朝ごはん食べにこれなくなっちゃうから!!
「でもそこまで断言できるってことはそういうことなんじゃ…」
「蘭ちゃんもやめて?ごめんね!私の言い方が悪かったね!これに関しては私が悪かったからこの話はもうやめにしようか!」
「何をやめるんですか?」
お前は何故きた安室透。
にこにこと完璧な営業スマイルで現れた安室透は絶対にあの会話も聞こえていたはずだ。
分かっててきたなこの人。
「雫さんが安室さんは着痩せするタイプって言うから、着てない時の安室さんのこと知ってるんだ〜って話!で、実際のところどうなんです!?」
「園子ちゃん、お姉さんの話聞いて?もうこの話題は終わりにして?お願いだから!!」
振られるの分かってて割り込んだなあの人。
「んー、そうですねぇ…それは僕と雫さんだけの秘密ってことで」
内緒。と言わんばかりに口元に立てた人差し指と、ハートが舞いそうなくらいあざとい顔でウインクをしてみせた安室透に店内中の女性客の黄色い悲鳴が聞こえた気がした。
勿論私は頭を抱えた。
そしてそんな私を見て面白そうに笑っているんだろう。
人のことからかうのよくないと思います。
ーーーーーーーー
「お帰りください」
「まだ根に持ってるのか?」
「お帰りください」
散々からかわれた日の夜、何食わぬ顔でインターフォンを押したのは降谷零でした。
勿論インターフォン越しにお帰りいただくようお伝えした。当たり前ですよね?
「降谷零はいいんだろう?」
「自惚れるなよ性悪め!」
「今日は随分ご機嫌ななめだな」
「誰のせいだと!?」
「安室透だろ」
白々しくもそう言い切った男にお前だよ!と鏡を突きつけてやりたい気分だ。
肩をすくめるその仕草がもう腹立つ。絶対許さない。
「口を滑らせたお前にも非がある」
「…わかってるよ。わかってるけど!何も会話に加わらなくたってよかったじゃん!兄さんのばか!」
「なんなら事実にするか?安室透でお前に触れていいならの話だが」
「安室透も降谷零も嫌いなのでお帰りください」
人のことからかう兄さんなんて嫌いだの意味を込めてそう告げれば数秒後、ばきりと嫌な音が玄関から聞こえた。
「待って待って待って!何してるのかな!?兄さん自分がゴリラだって自覚ある?ドアは力づくで開けるものじゃありませんけど!?」
「聞きなれない言葉が聞こえたものだからつい。で、兄ちゃんにドア壊されるのと自分で迎え入れるの、どっちがいいんだ?」
ん?と声だけは優しいが絶対にお怒りであるというのがひしひしと伝わってくる。
こんなのってない。
「…いらっしゃいませ」
「いい子だな」
ドアを開ければ満足そうに笑って私の頭を撫でる兄さんだが、最早恐怖で震えそうなんですけど。
最近強引さが増してる気がするんですけど。
私の兄さんってこんなに怖かったっけ?…いや、前々からこういうとこあったな…うん、あった。
「で、お前が好きなのは?」
「ふるやれーです」
「よくできました」
なんだこれ。
完全に言わされた感が凄いんですけど。
「傷ついた兄ちゃんに何をしてくれるのかな?」
「はあ?」
「テレビ下ブルーレイBOXの右隣」
「わかりましたわかりました!だから変身前ブロマイドで脅すのやめて!!」
限定BOXの特典でついてきたレッド役の俳優のブロマイドの位置を示した兄に思わず叫ぶように答えていた。
いやだってそれ絶対何かしらするぞって意味じゃん。過去に写真集処分されたことあるし、この人絶対やるから。
「で?」
「…か、かがんでくれなきゃできない」
「何を?」
「ばっかじゃないの!?馬鹿でしょ!なんで言わせるの!?そういうプレイなんです!?」
「雫がしたいなら頑張るけど」
「そういう意味じゃないです!!!」
全力で羞恥心煽ってくるのやめろください。
「傷つけてすみませんでした」
完全に棒読みだがしないよりはマシ。
そう自分に言い聞かせ、屈んだ兄に触れるだけのキスをすれば、逃がさないと言わんばかりに後頭部に回された手。
「んっ!?」
これやばいやつ。
本能的にそう感じて両手を突き出すものの、ゴリラに力で敵うわけがなかった。
ぺろりと唇を舐められて、食むように口付けられればもうながされるままだ。
「…変態め」
「なら雫も同じになるけど?」
悪くなかったろ?と事後に囁くこの悪魔はきっとまた同じ手を使ってくるに違いない。
もう絶対に不用意なことは口にしないことを心に決めた。
← →
戻る
top