どうしようもないくらいに、泣きたい気分だった。

昨夜私の背を撫でたのは確かに兄なのに、目が覚めるとやはり兄の姿は何処にもなかった。
夢なんじゃ…とも思ったけど、玄関ドアの郵便受けから入れられたであろう鍵だけが現実だと教えてくれた。

「…寝なきゃよかった」

寝たらダメだってわかってたのに、なんで寝てしまったのか。
久しぶりに感じた兄の温もりは、どうしようもないくらい安心して、そして恋しかった。
でも此処までしてくれたということは、嫌われてはいないのかもしれない。
会いたい。
溢れそうになる思い。

「あいたいよぉ…にぃさん…」

子供みたいに言ったって、兄さんはもう居ない。

「…しっかりしろ。大人だろ」

ぱしぱしと頬を叩いて気持ちを切り替えなければ。
今日は仕事だ。
1日の始まりがこんなにしんみりしてどうする!
子供は周りの空気に敏感なんだから大人がしょぼくれていたら子供たちまで不安にさせてしまう。

「…よし、大丈夫」

支度を済ませて最後に鏡に向かって笑いかければ、優しい先生の出来上がりだ。
よく忘れそうになるけど、私精神年齢はアラフィフだからな。
豆腐メンタルのアラフィフとかなにそれ笑えない。
しかも人生二周目のアラフィフだ。なにそれつよい。

「いってきます」

めそめそしてるアラフィフマジドン引きだわ。と思えばもうなんてことなかった。
そう、私は人生経験薄っぺらい精神年齢アラフィフなのだ。
かわいそうだから自分でいってらっしゃいと声を掛けておいた。
やっぱり虚しかった。

次もし兄さんに会えたのなら、その時は必ず殴ろう。





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