不思議な関係だと思った。

安室さんの妹である雫さんは出勤時は毎朝ポアロに通っていて、安室さんもその時間帯に居ることが多くなった。
いつの間にか雫さんと仲良くなっていた蘭は、安室さんと雫さんの関係を気にしていたが、彼らは兄妹だ。
仲良く見える瞬間があってもおかしくはない。
尤も、雫さんは兄であることを知らないから安室透として接して居るけれど。

「そういえば雫さん、以前お話していた約束の件ですが」

幸せそうにモーニングのトーストを頬張る雫さんに安室さんが声をかければ、彼女は一瞬面倒そうな顔を浮かべてから直ぐに愛想笑いを浮かべて返事を返した。
…安室さんのこと苦手、なんだよなぁ。

「やっぱり二人ってお似合いだよね」

こっそりと耳打ちしてきた蘭は実は二人が兄妹と知らないからだ。
安室さんとしては長年会えてなかった妹に会うことが出来て嬉しいだろうし、雫さんも兄だと思っていなくても、そっくりな人を相手にしたら多少は警戒心も解くだろう。

「明後日のご予定はありますか?」
「いえ、特には」
「じゃあ僕とデートしましょう」
「…は?」

きゃあ、と隣で小さな悲鳴を上げた蘭。
ぽっかりと口を開けているのは俺と雫さんだけだった。

「や、やっぱり安室さんって雫さんのこと…!」

そう言う蘭に彼は口の前に人差し指を立ててウインクをした。
おいおいおいおい、どうなってんだよこの人。
雫さんを見れば心底嫌そうな顔をしていた。
ああ、うん。なんとなく以前話した時から思ってたけど、やっぱり安室透という人物はどう足掻いても好きにはなれないんだろう。

「前に牛丼ご馳走したので、その分引いたら割に合わないと思うんですが」
「時間だけ僕にください。それ以外は全て僕が貴女に尽くしますから…ね?」

隣でまた悲鳴が上がった。

「んー…あー…やだ!」

それは子供が駄々をこねているようだった。

「安室さんは、やだ」

俺の知る限りで彼女はそこまでハッキリ言うタイプだとは思っていなかったので驚いていれば、安室さんは気にせず問いかける。

「どうして?」
「長時間一緒に居るのは耐えられそうにないので。それと、私どうしようもないくらいのブラコンだったみたいなので、何かをするなら全部兄とがいいです」

まさかの発言に目の前にいるのがその兄さんだよとは言えるわけもなく、真面目な顔をした雫さんと驚いた顔で彼女をみる安室さん。
けれど直ぐに何時もの顔に戻ってそうですかと言う姿は、嬉しそうだった。

「そういえば雫さんってお兄さんが居たんですもんね。雫さんのお兄さんかぁ…かっこいいんだろうなぁ」
「世界一の兄だからね」
「そこまで言えちゃうんだから本当に好きなんですね。どんな人なんですか?」
「ら、蘭姉ちゃん、雫さんお仕事の時間じゃない?」
「あ、私ったらすみません…!」
「まだ時間に余裕あるから大丈夫だよ」

何処で安室さんが自分の兄だと気付くかわからないのに、本人を前にその話題は気が引けて止めようとするが、上手くいかない。
こっそりと安室さんを伺えば、彼は俺の視線に気付いてから笑った。
…いいのかよ。
隠したいのなら関連する話題はしない方がいいのに、よっぽどバレない自信があるのか、それとも本当は気付いて欲しいのか。

「僕もそのお話聞かせてください」

ただ妹からの兄自慢聞きたいだけか?
案外この人もシスコンかもしれねーなと思った朝。




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