「いい加減身なりに気を遣え」

ゴロゴロと兄の硬いお腹を枕にしていれば、いきなり起き上がった兄によって頭を落とされた。

「なんで?」

だって特に出掛けるわけでもないしと言えば、呆れたような視線。
なんでだ。

「お前いつも俺のお古ばっかで全然お洒落しようともしないだろ」
「社会人になったらそれなりにするよ」

大体遊ぶ友達も居ないし、休日のお出かけなんてほとんど兄さんとばかりで、たまに唯くんがそこに加わるくらいなんだからお洒落する必要もないだろう。

「女子高生ってもっと服とか気にするものじゃないのか…?」
「兄さんの周りはそういう子が多いんだね。成る程、兄の目が肥えていく」
「そうじゃない!俺が選んでやるからいくぞ!」
「えー…」
「夕飯なんでも好きなもの作ってやる」
「行きます!」

兄さんの作るごはんはこの世で一番美味しいのだ。

ーーーー

デパートでも此処までの道程でもそうだけど、すれ違った女性は大抵兄を振り返っては頬を染めて居た。
中学に上がったころからメキメキとイケメン力が急上昇していく兄はもう慣れっこなのだろう。
かく言う私もそんな兄と一緒にいるから珍しくはないけれど、それでもやっぱり居た堪れないような気分になるのは仕方ない。
はたから見れば喪女がイケメンと手を繋いで歩いてるんだからそりゃあ物珍しいでしょうよ。
ごめんね、似てないけど一応妹なんです。
と誰に言うでもなく言い訳をしながら兄に着いていけば、ぴたりと止まった足。

「スカートは?」
「ええ…動きにくいじゃん」
「一着くらい持ってた方がいいだろ」
「…兄さんが言うなら」

兄には弱いのだ。
絶対似合うの買ってやるからな!と笑った兄さんを見ると、満更でもない。

「あんまり足出すのもな…やっぱりロングか」
「生足っていいよね」
「余所見するなおっさん」
「兄さんはそういうの好きじゃないの?」

物凄く残念な物を見る目をされた。
口で言えよ。
夏に向けて気温が上がってきたこともあり、生足率の高い今こそ堪能できるのに、やはりイケメンは作りが違うのかもしれない。
…兄さんって見た目だけならパーリィピーポーだよなぁ。
サングラスとアロハシャツとかとても似合いそうだ。
ナンパしてそう。
そんなことを思いながらぼんやりと兄の横顔を眺めていると、押し付けられた一着のスカート。

「やっぱり雫はこういう生地の方が似合うな」

シフォン素材の涼やかな色合いのロングスカートを持たされて、更衣室へと追いやられた。

「…なんだかなぁ」

あまりにも嬉しそうな顔で選んでくれたスカートは、兄さんが選んでくれたというだけで特別な物に見えた。
カーテン越しでよく聞こえないけれど、どうやら兄は店員に捕まっているらしい。
トップスは〜とか断片的に聞こえてきた言葉に、押し売りされたらたまったもんじゃないと急いでカーテンを開ける。

「あら、とてもお似合いですねぇ」

まさしくオーバーリアクション。
手を合わせるようにして口元へ持って行った店員さんが見事な演技力を発揮した。
兄は心なしかドヤ顔だった。
兄さんの見立ては素晴らしいけれど、店員さんの反応は演技力の賜物なのでドヤ顔はやめてほしい。

「やっぱり似合うな」
「実は彼氏さんともお話していたんですけど、そのスカートに合わせるのならこちらのブラウスがお似合いかと」

流れを掴んだ店員に押し付けられたブラウス。
兄を見ればにこやかに着てごらんと仰った。
成る程ね、彼氏発言を訂正する気は無く、勘違いさせておけという事らしい。
もう慣れっこだ。

結局ブラウスもお買い上げで私よりも満足気な兄さんだった。





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