○別部屋で電話で好きもしくは愛してると言われないと出れない

「事情を説明せずに別室にいる兄に電話で好き、もしくは愛してると言われないと出れない…馬鹿じゃないの!?馬鹿じゃないの!?」

大事な事だから二回言ったけどもう一回言うね。

「馬鹿じゃないの!?」

どこのバカップルだよ!アラサーの兄妹になにやらせようとしてるのかなこの首謀者は。
思わず頭を抱えて座り込んだ。
…別室にいる兄ってことは、兄さんも同じ状況なんだろうか。

「…やるしかない、か」

ひと通り見て回ったけど、あったのはこの司令文とその上に文鎮のごとく置かれていた携帯のみ。
取っ手のない扉はビクともしなかった。
こんな異空間でも電波は通っているらしく、耳に当てた携帯からはコール音が響いていた。

『…雫か?』
「よかった、ちゃんと兄さんだ…」
『もしかしてお前も今閉じ込められてるのか?』

やはり兄も同じ状況だったらしい。

「ねぇ、兄さんの所にも出るための司令文みたいなの届いてた?」
『ああ。俺の所にあったのはこの携帯と、かかってきた電話を取れと書いてあったな』

なんだその差は。
私にはとんでもなく恥ずかしい司令文入ってたのに、兄さんの方ずるくない?
いっそ内容を伝えてさっさと言ってもらおうと口を開けば、ピンポイントで口を塞ぐように落ちてきた紙。
…内容を伝えるのはナシ…なんでだ。
再び頭を抱える羽目になった。
誘導尋問みたいに引き出さなくてはいけないのか…兄さんじゃないんだからそんなのできるわけがない。

『雫?』
「…ううん、ごめん、なんでもないよ」

外傷はね。
心は既に傷を負ったけどね。
好きは私もよく言うけど、愛してるは中々言わない言葉なだけあって引き出すのが難しい。
どうしたものか…悩んでいても兄が不審がるだろうし喋ってるうちになんとかなればいいな。
もうそう考えるしかなかった。

「あ」
『さっきからどうしたんだ?』

閃いた。
司令文の内容を伝えるのは禁止だけど、言葉巧みに誘導して言わせろとも書いてない。
つまり、一言一言言わせればいいんじゃないかな。
私にしては頑張ったと思う。

「ねぇ兄さん、私が言ったことと同じ事言ってもらってもいい?」
『ああ、わかった』

よし、これでこの異空間とはさっさとおさらばできるぞ!

「あ」
『あ』
「い」
『い』
「し」
『おっとごめん、よく聞こえなかったな。続けて言ってもらってもいいか?』

やっぱり一言一言は聞き取り辛いらしい。

「あいし…って待った待った違う、違うんだよ兄さん」
『何が違うんだ?』

待って、なんか物凄く恥ずかしいこと言う羽目になってたよね今。
ダメなんだって、流石に私がそれを言うのはなんていうか今は恥ずかしくて無理だ。

「兄さん、好き!」
『俺も好きだよ』
「う、うん…あの、そうなんだけど、そうなんだけど…そうじゃなくて」

ん?と言う声が何処と無く楽しげに聞こえたのは気のせいだろうか。

「…ねぇ」
『どうした、言わないのか?』
「もしかして気づいているでしょ」
『さあ?』

うわぁ、絶対わかっててやってる。
私が言わせたい言葉も、私が恥ずかしくて言えない事もわかってる上ではぐらかした!!

『ほら、何か言わなくちゃ出れないんだろう?』
「兄さんってさ、いい性格してるよね」
『同じ部屋に居たのなら直ぐにでも抱きしめてやれたのに残念だ』
「褒めてないからね?」

分かってるくせになんて兄だろうか。
こっちばかり恥ずかしい思いをしている気がして、どうにも腑に落ちない。

「…兄さんのこと、こんなに好きなのに、閉じ込められたせいで声しか聞けないのか…」

こういうのは照れたら負けだと思うんだよね。

「声だけじゃ足りないよ、兄さん」

足りない。
声だけでは殴ることができないからね。
ドアが開いた暁には、知っててわざとはぐらかした兄さんに一撃お見舞いすると今決めた。
会いたいよ…としおらしく呟けば、息を飲む音がした。
電話越しだろうと兄さんに嘘は通用しないだろうから、あくまで本音を交えつつ言わなくては。

「…兄さんに言ってもらえないから、キスもできないし、抱きしめてもらうこともできないね…やだなぁ」

声が返ってこないことに首を傾げつつ、言葉を続ける。

「ねぇ兄さん、好きだよ。会いたいよ…一人はさみしいよ。兄さんと居たいよ」
『…っ』

あともう一押しな気配を感じた。

「兄さんの口から聞きたい言葉があるんだけど、駄目かな…兄さんの声で、聞きたいよ…」

兄さん。
目の前に居たのなら抱きついているところだが、居ないものは仕方ない。
早くここから出してくださいお願いします。必ず貴方を殴りに行きます。と思いながら、自分から言ってやることにした。
もうね、私の優先事項は面白がっていた兄さんを殴ることにすり替わってるからね。

「愛してるよ、兄さん」
『…俺も、愛してるよ、雫』

ガチャリ。
ドアが開いた瞬間駆け出して、同じように出てきているであろう兄に向かって飛び込んだ。

(…っ!?普通抱きつく所だろう!?)
(普通面白がらないよね!?兄さんの馬鹿!)

ーーーー
思い切り抱きしめてキスしようと思ったのにいきなり殴られて驚くお兄ちゃん




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