私の兄さんはかっこいい。
妹の贔屓目無しでもかっこいい。
断言する。
まじまじとその顔を意識して見ることは無いけれど、一旦妹という立場を離れて改めてその外見を見ると、やっぱりかっこいいよなぁ。と思ってしまう位にはかっこいい。
…うーん、まぁ今は安室透だし無駄に愛想のいい好青年だから余計にモテそうだ。いや、実際モテモテだ。
私個人の好き嫌いは置いといて、第三者目線で見たらやっぱり安室透は文句なしのイケメンだし、モテて当然。
降谷零だってあそこまで愛想振りまかないにしても、元が整っているのだからそれはモテた。とてもモテた。初めてそれを目の当たりにした時は若干引いた。
だってあんなのフィクションの世界だけだと思ってたし、いくらイケメンだからってあんなモテ方するかっていうね。
名前も性格も表情も違うのに、やっぱり兄さんなんだなぁって思ってしまう。
…うん、安室透は腹立つ位かっこいいよ。
ざわめく店内を忙しなく動き回る安室透はやっぱりイケメンだった。
「安室さん忙しそうだね」
「梓さんも忙しそうだし、やっぱりこの時間は駄目だったか…」
「でも先に来てたし気にする事ないよ」
カウンター席でのんびりとコナン君とお茶してます。
学校帰りの小学生捕まえてお茶しない?って声かけたけど決してお巡りさん案件じゃありません大丈夫です。私ペドフェリアじゃありません。
とくだらない言い訳を頭に浮かべながらコーヒーを飲む。
あの人のモテっぷりには慣れている筈なのに、どうにもこう、なんとも言えない感じが胸に広がっていく。
降谷零よりも安室透の方が多く会ってる上に会話もしているとかまさかそんなことありましたね。
「難しいなぁ」
「なにが難しいの?」
無意識のうちに溢れでた言葉。
「別人って割り切るのも大変だなって話」
ずっと安室透は別人と言い聞かせているけど、でも本当に本音の部分をいうのなら、あれ私の兄さんなのに。が本音だ。
小学生の頃にもこんなことあったなぁ。
ほんのたまに、少しだけ、兄さんと呼べないのが寂しく思う時がある。
本当は私の兄さんなのにって。
いい歳して子供みたいな事考えてるって自分でも分かってるから表には出さないけど、さみしいものはさみしいのだ。
だって声も外見も兄さんそのままで、違うのは作られた中身と名前だけ。
苦手なの分かってるくせに安室透でちょっかいかけてくる兄さんはこっちの気なんて知りもしないのだろう。
かといって私が兄さんの全てを知っているかと聞かれれば答えはノーだ。
…ある意味お互い様なんだろうか。
でも今関わっている仕事が片付けばちゃんとおかえりを言う事ができるから、それまで私は待つだけだ。
「雫さん、お兄さんのこと好きなんだね」
「大好きだよ。それこそ美味しいものを食べるよりもね」
「特撮ヒーローよりも?」
「…まぁ、それはほら、土俵が違うから比べるのもどうかなって」
「何のお話ですか?」
地獄耳め。
ひょっこり顔を覗かせて会話に加わる安室透はやっぱり人好きのするにこにこ笑顔だった。
「話してる余裕あるんですか?」
「ひと段落つきましたから。それに僕も雫さんとお話したかったので」
「コナン君、こんな大人になっちゃ駄目だよ」
わざと思わせぶりな発言をするのはやめてください。
そんな笑顔であざとく言われれば普通の女の子は照れるなりして喜んでお話しちゃうのだろう。
「今日はやけにご機嫌ナナメですね」
「安室さんに話しかけられたからですかね?」
「僕の事、嫌いですか?」
「…そういう狡いところは嫌いですね」
嫌いではない。
嫌いなわけがない。
だって兄さんだから。なんて言えるわけもなく、腹が立ったのでそっぽを向いて答えれば、小さく笑われたのが分かった。
ほらね、やっぱり人の事からかって遊んでる。
安室透には抱きつけない。
安室透には兄さんと呼べない。
安室透には好きと言えない。
なのににこにこ笑ってちょっかいをかけてくる。
だから苦手なんだ。
「よかった、嫌われていなくて。さっきから視線を感じていたのでどうしたのかなって気になってたんですよ」
ほらね、気づいててわざと言ってるんだ。
「貴方があまりにもかっこよすぎてつい目で追ってしまったみたいです」
どうせ言われると思ってなかったであろう言葉を素直にぶつけてやれば、ほんの一瞬だけ崩れた表情。
けれどすぐにいつもの顔に戻った安室透。
「コナン君、ケーキも食べよっか!」
「う、うん」
「かっこいい安室さん、ケーキ二つお願いします」
別に抱きつけなくても、兄さんと呼べなくても、好きと言えなくてもいい。
安室透の表情を一瞬だけでも崩せただけで随分と気持ちは晴れやかになった。
ーー
気を抜けば兄さんと呼んでしまいそうだから、わざと別人としてみようとしてる話
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