○兄の前で赤井さんにだきつく

「雫が赤井に抱きつくだと…っ!?」

赤井さんと兄さんと私で閉じ込められた異空間を脱出するには、赤井さんに抱きつかねばならないらしい。

「それだけで済むのならさっさと試すとするか」
「そうですね、では失礼して…」
「待て!何を考えてるんだ雫!」
「…いや、私が抱きつくの兄さんじゃなくて赤井さんなんだけど」

絶対にさせない!と声を荒げた兄さんは、がっちりと私を抱きしめて赤井さんを睨んだ。
赤井さんの瞳が「君の兄だろう何とかしてくれ」と言っている気がする。
何とかできたら私は今抱きしめられていません。

「ねぇ兄さん、抱きつくだけでこの異様な空間から出れるんだよ?さっさと終わらせた方がいいよ」
「なんでよりにもよって赤井なんかに…っ!」
「兄さん、私お腹減ったよ…」

くぅ、とまるで飢えた子犬のような鳴き声を上げるお腹をさすった。
空腹過ぎてぐう、って鳴らないとか相当空っぽだ。早く何か食べたい。

「食料もないこの空間に居続けるのは無理だろう。さっさと終わらせた方が彼女の為だと思うが」
「お前に言われなくとも分かっているッ!」
「じゃあこの手を離そうか兄さん」
「…ッ!」
「…にいさーん」

なんでそこで腕の力強めちゃうのかなぁ。
終いには肩口に顔を埋められてしまった。
こんな姿を他人に見られていることが恥ずかしいのだが、兄は平気なんだろうか。

「ねぇ兄さん、おなかへった!」
「…わかってる」
「ちょっと抱きつくだけじゃん」
「ちょっとって言うがお前は俺が別の女を抱きしめてたら何とも思わないのか?」
「思わない」
「即答だな」
「黙れ赤井!…分かってはいたが即答しなくたって…」
「だって出るための手段であってコミュニケーションとは違うじゃん」

なんで今回こんなに聞き分け悪いんだろう。

「ここに居たらキスもできないよ?」
「…なんでお前はそう…後で覚えとけよ」
「なんで脅されたの私!?」

漸く腕の力を緩めた兄さんから抜け出して、赤井さんの元へ行く。
背中に突き刺さる視線は無視だ。
私は早くご飯が食べたいんです。

「失礼します」
「ああ、気にするな」

腕を広げて待つ赤井さんに勢いのままに抱きつけば、ぽんぽん、と数回背中を叩かれて、直ぐに聞こえたドアの開く音。

「いつ迄抱きしめてるつもりだ!離れろ!」
「ただのハグだろう?」
「お前が背中に腕を回す必要はない!」
「やれやれ、馬に蹴られる前に俺は失礼するよ」

ひらひらと背中越しに手を振って去って行く赤井さんに、兄はずっと文句を言いつづけていた。
…相当嫌いなんだなぁ。

「兄さん、ご飯たべにいこう?」
「先にする事があるだろう?」

どうやら今直ぐしろと言う事らしい。
…赤井さんも居ないしいいか。
背伸びをして触れるだけのキスをすれば、がっちり後頭部を掴まれて貪るようなキスをされました。
どうやら兄も私とは別の意味で空腹だったらしい。

「ちゃんとご飯食べてからなら好きなだけ食べていいよ」

まずは私の胃を満たすのが先だと言えば、兄さんは嬉しそうに笑った。

ーーーー
結局いちゃつく降谷兄妹でした。




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