○コスプレしないと出れない


「この衣装に着替えよ…仮装大会かな?」

司令文の下には二着の衣類。

「これはまたベタな衣装だな」

その内の一着。ウサ耳カチューシャの方は言うまでもなくバニーガールだ。
どこからどう見てもバニーガール。
網タイツに黒のレオタード、お尻にはふわふわの真っ白な尻尾。
とてもバニーガールだ。

「ねぇまって何先に着ようとしてるの?おかしいじゃん!それじゃあ私がバニーガール着るみたいじゃん!」
「俺が着るわけないだろう」
「なんで!?似合うよ!?兄さんなら似合う!できるできるできるできる!!!」
「いいから早くしろ」

呆然とする私をよそに、自分は比較的マシなポリス衣装に着替え始める兄。
おかしい!
だってどっちを着ろなんて書いてないのに!!

「やだ!やだやだやだやだ!!絶対やだ!兄さんのバニーガールみたい!!絶対似合うから!着るだけ着てみようよ!」
「大丈夫、雫なら似合うよ」
「いい笑顔でそういうこと言うのやめて」

きっちりポリス衣装を身にまとった兄さんはそれはもうかっこよかった。
知ってた。
どうせイケメンは何着ても似合うもんね。
知ってた。
だからバニーガール衣装着たって似合うと思うんだよね。

「手伝おうか?」
「馬鹿じゃないの?」

物凄くいい笑顔で笑ってるのが心の底から腹立たしい。
レオタードってどうなってんの?露出度おかしくない?網タイツなんて履いてないも同然だからね。だって網だもん。スケスケだよ。防御力ゼロだよ。

「やだ!私も同じのがいい!着たくない!」
「我儘言うなよ…この二着しかなかったんだから仕方ないだろ?」
「兄さんはさぁ、そうやって先に着ちゃったから言えるけど、ずるいからね。普通じゃんけんとかするからね」
「今からじゃんけんするか?」
「…いいの?」
「それでお前が納得するならな」
「する!絶対する!!」

このチャンスを逃すわけにはいかない。
気合いを込めて出した手はパー。
一方兄の手はチョキを出していた。

「なんでチョキだすの!!!」
「なんでって言われても」
「さ、三回勝負…」
「往生際が悪い」
「やだ!着たくない!」
「…仕方ない、三回勝負にする代わり、お前が負けたら俺の頼みを一つ聞くって言うならいいよ」

背に腹は変えられない。
勝てばいいだけの話だ。

「…なんで?」
「お前がじゃんけん弱いからだろ」
「おかしい…」
「約束は約束だ」

まかさの三連敗。
…私ってこんなにじゃんけん弱かったっけ?
首をかしげる私をドヤ顔で見る兄。
運までもがイケメンの味方をしたというのか。

「俺に着替えさせられるのと自分で着替えるの、どっちがいい?」
「着ます!自分で着ます!!」

ひ、ひいい、アラサーがバニーガールとか公害レベルなんだけどどういうことなの。
救いは此処に鏡がなかったことだろうか。
こんな姿見たら生きていける気がしない。
ぴょん、とたった二本のウサ耳。
そのカチューシャを取り付けたまま頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「どうした?」
「どうしたじゃないよ!着替えたんだからドア開かないのおかしい!!」
「お互いに全身を見ないと駄目なんじゃないか?」
「絶対やだ!」

兄さんはいいよ?かっこいい警察のお兄さんだからね。
でも私は浮かれバニーだよ?アラサーのバニーガールだよ?なんなの?なんでポリスとバニーガール?なんでこの二つなの?

「俺しか居ないし恥ずかしがる必要ないだろ?」
「そういう問題じゃない!私が恥ずかしいから嫌なの!誰にも見られたくない」

兄でも駄目だ。
絶対嫌だ。

「ずっと此処に居る気か?」
「ちょ、それずるい待って離れて!」

強行手段に出る事を決めたらしい兄は、後ろから人のこと抱き締めて耳元で喋り出した。
何これ物凄く恥ずかしいんだけどねぇわざとやってるよね?

「待たない」
「っ、わざと囁くのやめろ!」
「じゃあ兄ちゃんの言うこと聞けるよな?」

もうほんとやだこの人…
どうしたものかと迷っていると、するりと太ももに伸びた手。

「警察のお兄さん、それはセクハラでは?」
「かわいいウサギを愛でるのはセクハラにはならないだろ?」

ぞわり、と鳥肌が立った。
これ駄目なやつだ。
頭の中で警告音が鳴り響く中、セクハラ警官はそのまま網の部分を器用に爪でひっかいて破き始めた。
ぷち。と聞こえる音に脳内で警告音が更にけたたましく鳴り響く。

「レッドカード!!えっちいのはよくないと思います!!!退場!!たいじょー!!!!」
「ドアが開かない事には退場はできないな」
「その手をやめろ!!こんな警察官がいてたまるか!!」
「残念、ちゃんと手帳もあるんだが…」

世も末だな!!
くすくす笑う声に完全にからかわれていることに気づいた。

「そう言えばウサギは耳がいいらしい」
「だから何」
「そう拗ねるなよ。音に敏感、というところはお前と同じだろう?」
「っ、だから、そういうのやだっていってるのに…!」

今わざと低く囁いたな!?

「くぅ、このセクハラ警官め…!」
「そうそう、交配時はクーと鳴くらしい」

悔しくて出た声なんですけどねぇちょっとほんとに手つきが妖し…っ撫でてきた!?まってまってまって!!
くすぐったいような何とも言い難い感覚から逃れようと身をよじっても、後ろから抱き締められてるせいか中々身動きが取れない。
どんどん前のめりになるだけで、逃げ場はなくなっていく。

「コスプレが何の略か知ってるか?」

とうとう四つん這いになる形で地面に手を付けた時、逃げ場を塞ぐ様に両手に重ねられた大きな手。
覆いかぶさるように重なった体に嫌な予感がした。

「コスチュームプレイ」
「…ねぇ、まって、まさか…っ」

プレイってそういう意味じゃないよね?

「頼みを一つ聞くって約束、忘れてないよな?」

それからどうなったかって?
クーって鳴きましたとだけ言っておく。








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