「ねぇ、雫さんどう思う?」
今日も今日とてポアロで恒例の朝食を取っていれば、小さな声でコナン君が問いかけてきた。
相変わらずコナン君たちはテーブル席で、私はカウンターだ。
「安室さんは遂に男にもモテるようになったのかぁ」
チラチラと後ろから感じる視線はカウンター内の安室さんの様子を伺っているのだろう。
あんだけ愛想振りまいてあざいといことやってるんだから男に好かれても不思議ではない。
幼少期は女の子みたいに可愛かったし、もしかしたらちょっかいかけてくる奴の中の一人や二人は好きだったかもしれないし。
やだ、私のお兄ちゃんモテすぎ…?
…違う違う、降谷零は別だ。
無駄にモテるのは安室透だけでいい。
「心配じゃないの?」
「安室透が掘ら「雫さん、これ僕からサービスです」
わざと言葉を遮って差し出されたのはアイスクリーム。
「朝アイスだ…!」
「アイス、お好きですよね?」
「しかもさくらんぼ付き…」
「アイスだけだとちょっぴり寂しいのでオマケです」
バニラアイスにホイップとさくらんぼの乗ったそれはサービスにしては豪華だった。
安室透の好感度が爆上げした瞬間。
「雫さん…」
「まぁまぁ、彼女は食べ物には目がないから」
「ありがとうございます安室さん…!」
「喜んで頂けてなによりです」
蜂蜜みたいに甘ったるい笑顔も、アイスの前では天使の微笑みに見えた。
やっぱり美味しいものは偉大だなぁ。
あ、欲張りすぎてクリームついた。
口の端についたクリームを拭おうとお手拭きに手を伸ばせば、色黒の手が口元に伸ばされて…
「ついてましたよ」
クリームを拭った指先を自然な動作で舐めてご馳走様。と笑った蜂蜜野郎。
きゃあっ。と蘭ちゃんの黄色い悲鳴が静かな店内に響き渡った。
何が嫌ってそういうところですよお兄様。
ーーーー
「あ、雫さーん!」
仕事終わりに歩いていれば、光彦君が私に気づいて手を振っていた。
その先にはポアロへ駆け込むコナン君と、それを追う元太くんと歩美ちゃんの姿。
なんだなんだ、ポアロ大人気ですね?
早く早くと何故か急かされ子供達と共に店内に入れば、朝見かけたおじさんに肩を掴まれた安室さんの姿…ついに男からの告白現場に立ち会ってしまったというのだろうか。
新しいパターン過ぎて妹としては助け方がわかりません。
「おじさんは…パン職人ですね」
そして始まる推理ショー。
なんだこのかつてないほどの気の抜けた推理ショーは。
お安いサスペンスドラマでも扱わないぞ。
「…いつからお料理教室になったんだここ」
そして始まる安室クッキング。
なんだこの茶番。
「折角ですし雫さんも是非覚えていってくださいね」
「…食べに来るんで大丈夫です」
覚える気はさらさら無いので子供達と共にカウンターで仕上がりを待つ事にした。
蒸し器を使い始めた時点で私が作る可能性は消えた。
わざわざあんな手間をかけてまでサンドイッチを作るくらいなら、既製品買います。
もしくは兄さんに駄々こねて作ってもらいます。
つくづく甘ったれた妹だと自分でも思う。
「…本業が何か分からなくなる時ってあるよね」
「…まぁ、でもどの仕事も真面目にやってるって事でいいんじゃないかな」
シャキシャキのレタスが素晴らしいハムサンドは、もういっそ料理人さんかな?と勘違いしそうである。
乾いた笑いを浮かべたコナン君はもうこの話題を続ける気は無いのだろう。
「美味しいね」
「うんっ!イケメンさんで料理もできるなんてすごいね!」
本当に、私の兄さんはたまに不安になるくらい、凄いのだ。
電話越しの相手にほんの一瞬顔色を変えた兄が、その内容を私に言う事は無いのだろう。
大丈夫、私はちゃんと待っているよ。
必ず帰ってくるという言葉を信じているから。
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