流れ星は、星が死ぬ瞬間だと聞いた事がある。
昔兄に買ってもらった本のなかの一つ、マッチ売りの少女ではおばあさんが誰かの命が消えようとしている象徴と言っていた。
本当はチリや小さな岩の欠片が燃える現象らしい。
わー流れ星!綺麗!と頬を染める女性や、目を輝かせる子供にはとてもじゃないが言えない。

「…あ、」

ひゅん、と流れた星。
地上に落ちればそれは隕石と呼ばれ、落ちることなく消えればただのゴミ。
落ちる前に、消える前に輝いて、人々に綺麗だと感動を与えられるのなら、ゴミという名前の綺麗な光なんじゃないかと思う。
流れ星。
流れる星。
いずれにしろ星、そう例えられるのだから、きっとゴミなんかじゃない。
燃えカスだって、流れ星という名の綺麗な星の一つだ。

「何一人で寛いでるんだお前は…」
「だって兄さんがおつまみ作ってくれるって言うから」
「手伝うという発想は?」
「ない!」

呆れた溜息はいつものことだ。
潜入の仕事の関係でポアロ以外で会えることが少なくなったものの、こうしてたまに家に来てくれる事がある。
新しく越して来たセキュリティもしっかりしているマンションだ。
お酒を片手にベランダで星を眺めたりできちゃう素敵な部屋。

「車じゃなかったらご馳走できたのになぁ」
「一緒に住めるようになったら頼むよ」
「うん、ちゃんと待ってるよ」

兄さんの今関わっている仕事が片付いたら一緒に住めるようにと選んだ部屋。
一人で住むには広いけど、おかえりが言えるその日が必ず来るのを知っている。
だから寂しくはない。

「そうだ、さっき流れ星見たよ」
「ちゃんと願い事したか?」
「今以上に求めることなんてないからしないよ」

兄さんとまた会えて、こうして話せることができて、ちゃんと待っていればお帰りなさいが言える。
そんな幸せが訪れるって分かっているのに、これ以上を望むのは欲張りだ。

「兄さんにおかえりが言える。それが分かっていれば他に望むことなんてないよ」
「酔ってるのか?」
「酷いなぁ、酔ってないよ!」
「冗談だ、だからそんなに拗ねるなよ」

ぽんぽん、と撫でられる頭。
甘えるように抱きつけば、感じる体温。
降谷零はちゃんと居る。
ちゃんと此処に帰ってくる。

「拗ねてません」
「本当か?」
「…ちゃんと待ってられるのに酔ってるとか言うから」
「ごめんって。大丈夫、ちゃんと分かっているさ。雫が待っていてくれるから、俺はちゃんと戻って来れる。必ず戻る為に、生きていられる」

お互い背中に回した腕。
私が兄さんに感じてるように、兄さんにも生きてる体温が伝わっていればいい。

「兄さんにくっついてるとき、あったかいなぁ、生きてるなぁって安心する」
「…俺も、生きてる実感がするよ」

同じようにあたたかい血が流れていて、脈を打って、呼吸をして、生きている。

「兄さんと会えていなかった数年は、生きた心地がしなかった」

いつも当たり前のように側にあった温もり。
私は降谷雫で、ちゃんと生きているのだと感じることができた体温。
私は降谷零の妹なのだと実感する体温。
前世の私は死んだけれど、今の私は、降谷雫はちゃんと此処にいるのだと実感できるんだ。

「必ず帰って来てくれるって分かっているから待てるよ。降谷雫と降谷零が存在する限り、必ず」

前世の記憶に引きずられていた幼い頃とはもう違う。
今の私は降谷雫として生きている。
降谷雫は、降谷零が居たから、兄さんが居たから存在することができたんだ。

「ずっと側に居てやれなくてごめん」
「いってらっしゃいとおかえりなさいが言えるのなら、それでいいよ」

国を守る為に危険を冒してでも駆け回る。
今の仕事が片付いても、国を守るというその使命を胸に、兄はずっと生きていくのだろう。
私はそんな兄の帰る場所になるのだ。
いってらっしゃいと見送って、おかえりなさいと迎え入れる、そんな存在に。
だから、笑って待ってられるよ。




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