やってしまった。
誘われるがままに乗せられて、結局最後までしてしまった。
…いや、誘導したのは俺の方か。
触れるだけのキスをした妹の顔が、余りにも儚げで、このまま離してしまえば消えてしまいそうで、そして物欲しげに見えたその顔に気付けば誘導するような言葉を吐いていた。
そんなつもりで雫の元を訪れた訳ではないのに、気づけば求められるがままに与えていた。
白い肌に痛々しい程つけた痕。
いっぱいちょうだい。
もっとほしいよ。
にいさん。
だきしめて。
いつもの甘える声と違って、色気を纏った切実な声が俺を求める言葉を紡ぐ度に、何度も何度も繰り返し熱を送った。

「…やり過ぎたな」

どう考えても初めての相手にするにはやり過ぎた。
しかも体力がないのを知っていて、求められるがままに与えてしまっただけではない。
確実に自分の欲も含まれて居たのだから、わざと乗ったと言われても仕方がないだろう。

ポアロに出勤して直ぐに梓さんから雫の調子が悪そうだったと聞いてから本人に会うまで、気が気じゃなかった。
コナン君に連れられて来た雫は何度聞かれても大丈夫だと言うばかりで何も言おうとはしなかった。
さっきも嘘をついてまで話すのを拒んだのは、本当に今はまだ言えないだけだったのだろうか。
縋るように求めてくる姿はいつもの甘えるものと違って、まるで助けを求めるように、互いの存在を確かめるように熱を求めているようだった。

「…何がそんなに怖いんだ」

教えてくれと言っても、妹は答えないのだろう。
涙の跡が残る頬を撫でれば、にいさん、と掠れた声が呟いて、直ぐにまた穏やかな寝息をたて始めた。
雫が抱えているものが何か、俺には分からない。
子供の頃、周りよりも遥かに大人じみた言動をしていたことも、遠足で泣きじゃくった理由も、俺は知らない。
不安に揺れたあの瞳の奥に、何が隠されているのだろう。

「…ごめんな」

ずっと側について居てやりたいが、今自分の置かれている立場ではそれはできない。
やっと会えた。
やっと通じ合えたのに、側に居続ける事ができないのがこんなにももどかしいなんて。
どんな時でも側に居てやれるように、今は自分の使命を果たさなければならない。
全てが片付いたその時は、ちゃんとただいまを言うために。雫の隣へ戻るためにも。
全てが片付いたら、もう消えてしまった薬指に付けられた痕と同じ様に、指輪をはめてそれと同じものを雫にも贈ろう。

「待たせてばかりでごめんな」

起きていたらきっとこう返すのだろう。
兄さんが戻ってくるならいつまでも待つよ。と。
だから俺も待とう。
雫が話せるようになるその時まで。





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