「雫さん、元気になったみたいでよかったね」
「…うん、そうだね」

本当に、大丈夫なのか?
怯えた顔で男を見る彼女の顔が、妙に引っかかった。
あの後はずっといつも通り笑って蘭達とブュッフェを楽しんで居たし、帰り際も笑っていた。
なのに、どうしてもあの時の顔が頭から離れなかった。

「あれ、雫さんからだ」
「え、雫さんから?」
「うん、どうしたんだろう」

着信音をあげた蘭の携帯。
彼女の方から連絡がくる事は滅多に無いのに、一体どうしたのだろう。

「雫さん今日はありがとうございました…はい…えっ、そうなんですか?じゃあ園子に聞いてみますね!はい、じゃあまた連絡しますね」

園子って事は遊ぶ約束か何かか?
どちらかと言えば園子達に半ば強引に連れ回されている印象が強い彼女が自ら何か誘ったのだろうか。

「ねぇ、雫さんなんて?」
「それがね、近々オープンする予定のテーマパークか、オープンしたばかりのテーマパークがあったら行ってみたいって連絡だったの。雫さん、いつも私たちに巻き込まれるような形で付き合ってくれてたから、向こうから誘ってくれるなんてなんだか嬉しいね」

テーマパーク?
確かあの人、人混みが苦手だっていつか言ってなかったか?
だから今回も本当は乗り気じゃなさそうだったと蘭が言っていたはずだ。
それが急に人混みの多い場所を指定するなんて…何もないとは思えない。

「園子に聞いたらやっぱり東都水族館になるみたい…コナン君?」
「あ、ああごめんね、東都水族館に行く事になったの?」
「うん、観覧車も直ったみたいだし、リニューアルオープンって形でまたやるんだって」

東都水族館。
あの一件から観覧車側はずっと工事中だったけどもう直ったのか。

「雫さんにも連絡して予定合わせなきゃ。楽しみだね!」
「うん、そうだね」

なんだ、この違和感は。
雫さんは本当に元気になったのか?いくらなんでも普段の彼女から考えたらこの流れは不自然に思えた。
何故わざわざオープン間近かオープンしたばかりのテーマパークを指定したんだ?
その条件では彼女の苦手な人混みに自ら行くようなものだ。
ただの勘でしかないけれど、彼女は何かを確かめる為にその条件で探しているんじゃないのか?
…一体何を確かめるつもりなんだ。
いくら考えてもその答えは出てこず、本人に聞いたところではぐらかされるのも目に見えていた。
…なら、安室さんに聞いた方が早いか。
場所が場所だし、もし万が一にも組織関連のことだったら、彼も何か知っているかもしれない。
それ以前に兄である安室さんなら、雫さんのことを俺たちよりも知っている筈だ。

結局、テーマパークへいくその日も安室さんはポアロに居なかった。
探偵の仕事が忙しいらしいと梓さんは言っていたけど、組織関連のこともあるだろう。
珍しくもないことなのに、雫さんの件があるせいか、妙な胸騒ぎがしていた。









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