「あ、降谷先輩おはようございます」
「ああ、おはよう」
昇降口で俺を見かけた苗字が笑顔で駆け寄ってくる。
成る程、確かに忠犬だ。
ふと、ブラウスの首元に貼られた絆創膏に目が止まる。
「お前、その絆創膏どうしたんだ?」
「ああ、なんか蚊に食われたみたいで、かじったら血が出ちゃったて、お腹もやられましたよ…秋なのにまだまだいるもんなんですねぇ」
「お前肌白いから目立ちそうだな」
「そうなんですよ。爪でガリガリやったら結構痛々しくなっちゃって、貼らない方が治り早いのもわかるんですけど、ちょっと見た目があれなんで貼りました」
「キスマークじゃないのかぁ」
「お前な…」
いつの間にか俺と名前の会話を聞いていた友人は、それだけ言って教室へ走り去って行った。
「キスマーク?ああ、なんか年頃の女子が彼氏と大人の階段登りましたアピールでわざと晒すアレですか」
「いや、まぁ強ち間違いでもないが…」
「流行りなんですかね?痕残るってことは痛くないのかな…勲章的なやつですかね?」
「…俺に聞くな」
大真面目に考えるこの後輩は、その発言からも分かるように、恋とは程遠い思考回路の持ち主なのだろう。
「あ、そういえば先輩のおかげで一位取りました!先輩の言った通り父が泣くほど喜んでくれましたよ!本当にありがとうございます!」
これ言うために声かけたんですよ!と続けた後輩。
嬉しくてたまらないのだと言わんばかりに笑う姿に、こちらまで嬉しくなる。
「よくやったな」
「ちょ、撫で方!私は犬じゃないんですけど」
「俺の忠犬だろ?」
「いや、ほんとそのネタやめてくださいって」
わざとぐしゃぐしゃに撫でて崩した髪型を手櫛で直しながらこちらを見る顔は拗ねていた。
お前でも拗ねることあるんだな。
「そうだ、前にご褒美やるって言ってたろ?」
「え、あれガチですか?」
「勿論。ご主人様として当然だろ?」
「ねぇだから人権って知ってます?」
冗談だ。と返しながら昨日散々頭を悩ませて買ってきたご褒美を鞄から取り出せば、首を傾げながらも受け取る忠犬。
ああ、だめだ、本当に犬に見えてきた。
「いいんですか?」
「ああ、返品は受け付けてないからな」
「ありがとうございます!!」
ほら、見えない尻尾がばたばたと振られてる。
それが可愛くて仕方なくて、今度は髪型が崩れないように頭をひと撫でして背を向けた。
まぁ中身を喜ぶかどうかは後でわかるだろう。
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