「赤井さん、アースエイクって知ってる?」

沖矢昴の姿であろう彼に電話越しに尋ねれば、短く肯定の言葉が返ってきた。

「何度か彼とは任務で一緒になったことがあるが、彼がどうかしたか?」
「アースエイクの妹に会った」
「成る程、奴まで辿り着いたか」
「成る程って…妹は組織の人間じゃないの?」
「ああ、彼女は一応こちら側の人間だ。それに、俺がキールに殺されるとメールをくれたのも彼女だ。ボウヤの読みと同じく、アースエイクもジンの行動を読んでいたんだろう」

だから安心してくれていい。
と言う声は彼女の事をよく知っているのか落ち着いていた。
というかあの時のメールって名前さんだったのかよ…
っていうか先に教えてくれたってよかったじゃねぇか。

「なら兄に会ってないってのは嘘か…」
「互いに生きている限り、彼女はアースエイクからは逃れられないだろう」
「それってどういうこと?」
「プライベートなことに関して詳しくは言えないが、アースエイクは彼女に情報を集めさせて、その情報で暗殺の任務をこなしている。確実な仕事をする為には確実な情報が必要だからな」
「つまり情報収集に長けてるってこと?」
「ああ。だが彼女の本業は医者だ。ハッカーにしろ彼女は兄が必要とする情報のみを的確に引き抜くだけで、それ以外は素人だ」

素人?
的確に情報を引き抜くだけの腕があるのなら、NOCを探せと言われたら彼女伝でアースエイクに渡ることもあるんじゃないか?

「彼女は調べろと言われた対象の提示が無ければ何も出来ない。自らターゲットを探すのは苦手だからな。NOCを探し出せという命令では的確に絞れない。例えばライを調べろと言われたのなら、確実に俺の正体を見つけ出すんだろうがな」
「もしかして赤井さんそれで正体知られたとか?」
「ご名答。当時は先読みしてがむしゃらにハッキングしてたら見つけたと言っていたが、本当に偶々だったようだ」

偶々でFBIの情報漁って見つけ出すとか十分すげぇだろ。

「彼女は組織の壊滅を望んでいる。自らNOCを手当たり次第に探すのはバレた時に処理に困るからしないと言っていたし、君が心配するようなことは起きないだろう」
「赤井さんが言うのなら信用できる人だね」
「ああ、もし仮にNOCを見つけてしまってもデータを消した上でパソコンを壊す程の徹底ぶりだからな。安心してくれていい」
「でももしアースエイクにそれがバレたら、名前さんはどうなるの?」
「…殺されはしないだろうが、心身ともに健康でいられるかは保証しかねるな」

殺さないということは、それ程までに彼女を必要としているということか。

「僕もう少し名前さんに近づきたいんだけど、難しいかな?」
「彼女は常に働いているからな。アースエイクも不定期に彼女の部屋へと押し入るようだから会うなら外がいいだろう」
「病院とか?」
「…いや、病院はやめておけ。死人のような顔した人間に声をかける勇気があれば別だがな」
「…やめとく」

あの人いつ休んでんだよ。

「俺の方から彼女に言っておこう」
「いいの?」
「ああ、本当は以前伝える予定だったが、未成年は怖いから嫌だと聞いてもらえなくてな」

どうやら護るべき対象を増やすのは面倒だから嫌らしい。と続けた赤井さんに、確かにあの人なら言いそうだと思えちまった。
ただでさえ医者として忙しいのに組織のことまでやらされて、そこに仲間とは言え未成年が加わるとなると彼女にとっては護るべき存在になって悩みの種になるんだろう。
自分の事で精一杯な事に気付いているから、自己責任の取れる成人のみを頼るのだろう。

「その為にはボウヤの手も借りたいんだが.いいか?」
「勿論。僕に出来ることなら言ってね」
「ああ、まだ彼女に連絡を入れてなかったこともある。君が工藤邸まで連れて来てくれた方が手っ取り早い」
「でも大丈夫かな?僕ついさっき知り合ったばかりだけど…」
「気にすることはないさ。彼女は押しに弱い所があるからな。なに、引きづり込めばこちらのものだ」

逃しはしないさ。と続けた赤井さん。
ごめん、名前さん。
やめろ!ききたくない!ほんとやめて!と駄々をこねる彼女の姿が安易に浮かんできたものだから、先に心の中で謝っておく。






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