沖矢昴はあまりに理想的な男性だった。
一見優男に見えて体の作りはしっかりしているし、穏やか口調に優しい声音。
怒ることなどないかのような器の広さ。
多少の料理もできるという完璧な設定に、これが理想と言わずになんというのだろうか。
まあつまり何かっていうと、包容力って素晴らしい。
「…いきなり押しかけてきたかと思えば、何をしてるんだお前は」
とりあえずソファに座ってくれとお願いしたその膝に頭を乗せ、絶賛膝枕を堪能中である。
「沖矢さんはそんなこと言わない」
顔と声は沖矢さんなのに、口調のみが赤井さんの違和感に文句を言えば、諦めたようなため息が一つこぼされた。
「どうやら貴女は僕の事がお好きなようで」
「はいそれはもうこうして押しかける位には」
「名前さんにも男性の好みがあったとは意外です」
私だって一応女である。
多少好みのタイプがあっても当たり前だ。
恋愛未経験だけど!!!
「安室さんもイケメンで女性に人気だと聞きましたが」
「いや、あの人は胡散臭いし自分がいかにイケメンでどうすればウケがいいか分かってやってるのが腹立つので無理です」
自覚ありのあざとい系イケメンは完全に嫌いなタイプである。
「沖矢さんは包容力があるので甘えたい時に甘えたいだけ甘やかしてくれると思うんですよね」
「ほう、では僕に甘えに来たと?」
肯定する代わりに腹に顔を埋めた。
…成る程、流石肉体は赤井秀一。硬い。
いやでも沖矢さんもインドアに見えてその骨格からしたらこれ位筋肉あっても違和感はないかもしれない。
「ストレスが限界突破だったので恥を捨てて参りました」
「それはそれは、少しでも貴女の役に立てるのなら、僕は幾らでも膝を貸しますよ」
「…沖矢さん好き結婚したい」
もし沖矢昴が実在するのなら、プロポーズする位には好きである。
「でもどうして僕なんですか?」
「愚痴を言っても全部聞き流してくれそうだし、怒らなそうだし、何言っても大丈夫そうだから」
「成る程、じゃあ好きなだけ吐き出していってください」
そう言って髪をすくように優しく頭を撫でる大きな手。
それが気持ちよくてもっとと強請るようにすり寄ってしまうのは、沖矢昴が甘やかし上手だから仕方ない。
そう、これは自然の摂理とも言えるのではないだろうか。
「我慢はするけど痛いものは痛いし嫌だし逃げたいしもうこんな生活やだー」
何も考えずにただ思ったことを吐き出していく。
「体だってボロボロだし、切り傷にタバコの痕に殴られて鬱血しまくりだしこんなんじゃお嫁にいけないし、なのに恋すらしたことないのに処女散ってるし、しかもその初体験がレイプとかほんとに意味わかんないし嫌に決まってるし、なんで私がいつまた何があるかわからないってアフターピルまで常備してなきゃいけないのやだよもうやだ」
一瞬頭を撫でる手が止まったものの、直ぐに再開され縋り付くように甘える。
「我慢して、バレないように隠し続けてなきゃだけど、本当はいつだって助けてって言いたかったし、もしかしたら誰かが気づいてくれるかも、気づいて欲しいって甘ったれたことをずっと思ってたし今でもおもってるし、だから早くあんな組織消えて欲しい」
そうしたら私はやっと解放されるのだ。
「もうやだこんな生活」
じわりと滲む涙が情け無く感じても、包容力の塊沖矢昴の前であるのだから何も恥ずかしくない。
「あー…もうやだよぉ…」
子供みたいに喚いて泣いて甘ったれて。
それでも沖矢昴は何も言わずに受け止めてくれる。
ありがとう沖矢昴。
やっぱり結婚してほしい。
「頑張りましたね」
「…うん、がんばった」
「お利口さんですね」
「うん、いい子でいたかった…」
優しい声と温もりに、徐々に意識は沈んでいく。
久方ぶりの安眠にありつけそうだ。
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