私の幹部入りはそれはもう華麗なるスピード出世だった。
本業よりもハイスピードな出世だったんだけどなんなの?犯罪者に向いてるとかそういうこのなの?やだーこわぁい。

常に死と隣り合わせのこの組織では、兎に角気が抜けなかった。
ぶっちゃけお国の為とかもうそんなんどうだっていいと思ってしまう位には死にたく無かったし必死だった。
かつてここまで生きることに必死になったことがあっただろうか?
いやまぁ元々お国の為とかたいそれた正義感なんぞなかったけれども。
まずい、こんなこと言ったら上司に怒られる。
同じく潜入している私の上司は日本に対して自分の国精神が強い。
いつかFBIと合同捜査なんてものがあった日には、面切って文句ぶちかましそうでこわいなとか思ってますいやほんと。
組織っていうのは目指してるものや目標が同じであっても、属してる場所が違うだけで面倒だ。
特に公安のエリート集団なんてプライドエベレスト級でそりゃもう一癖も二癖もある。

話が逸れたが私は死にたくないのだ。
死ぬために生まれてきたわけじゃないし、生かすために産んでもらったのだ。
死ぬわけにはいかないだろう。
そして私を産むのと引き換えに亡くなった母と、その決断を受け入れた父を思うと死んでたまるかという話。
ここまでして生かされた私は、何がなんでも生きねばならない。
私自身に生きる目標も執着もないけれど、ただ一つだけ言うとするならば、兎に角生きること、この一つに尽きる。
本業に関しても父の期待、そして腹のなかにいる時から正義感のある子になってほしいという母の思いによるものである。
私はあの二人の思い通りの人間にならなくてはいけない。
つまり死んではいけないのだ。

「うん、今日は綺麗だな」
「遠方射撃で返り血はちょっと…」
「返り血だけじゃなかったろ。ほんと、お前が気を失って帰ってきたときは死ぬんじゃないかと心配したんだぞ」

別地点で見張りをしていたスコッチが運転する車に乗り上げる。
スコッチが言うのは数ヶ月前の任務の話だろう。
生きるのに必死過ぎてあんま覚えてないけれど、大分血まみれだったらしい。
刀なんて古風なもの握らされて放置された時だったような。
いやもう、あれは酷かった。
完全にいじめだ。
NOCじゃないと証明したいのならテメェで全部片してこい。
とか訳のわからないことを言われて、数十人の中へ放り込まれた。
黒の組織と手を切ろうとしていたどっかの組織らしいけど、日本人らしく刀でも使えよと渡されたあれ。
いやほんといじめだ。
パワハラだ。
ブラックってレベルじゃねぇ。
死刑宣告も同然である。訴えたら完全勝訴だぞ…ここが普通の会社だったらな!!

ジンは疑わしきは罰せよが口癖のような男で、一度私が言い渡された任務に渋い顔をしただけで疑われて言いがかりつけられて死刑申告だからほんともう勘弁してほしい。
ジンは別に本気で私が潰せるとは思ってなかったし、そのまま死ねと言うことでやらせたんだろうけど、ところがどっこい。
死にたくない精神の私はどうやら人間やめてたらしい。
自分の運動神経マジチートとは思ってたけど、まさか人間辞めてるとか思うわけねぇですわ。
皆殺しとか後から聞いてヒッてなったわ。
その時私の死体の回収役として使われたのはライだったらしい。
死体の山の中で気絶した私を見たときは驚いたとかなんとか。
ポーカーフェイスが似合うあのヘビースモーカーの色男でも顔を覆いたくなるレベルだったらしいからびっくりですね。

私だってそんなん見たら驚くというかむしろ引くわ。

「あれでジンのお気に入りになっちゃうんだからもうどんな顔をしたらいいのやら」
「ははっ、でも上に近づけたんだろう?お手柄なんじゃないか?」
「人殺しでお手柄なんてほんと笑えませんね」
「…ああ、そうだな」

私もスコッチも同じだ。
国を守るため、世界を守るため、こうやって紛れ込む人間が一体何人いて、何人死んでいくのだろうか。
そして同時に何人の命を奪っているのか。
死にたくないなぁ。なんて同業者の前で言うわけにもいかず、慰めるように頭を撫でる手に静かに目を閉じた。

拝啓天国のお母様。
生きるてるだけで儲けものって自分に言い聞かせる娘をどうか許してください。
そうでもなけりゃ気が狂いそうだ。



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