それは突然の事だった。

「こそこそ嗅ぎ回るネズミはテメェかバーバラ」
「はい?」

渡された暗殺リストに思わず顔をしかめた瞬間、眉間に突きつけられた拳銃。
ハイスピードで上司を差し置いて幹部入りを果たし、後から無事上司も祝幹部入りおめでとうございます。
なんてことがありつつも、ボロが出ないようにひたすらジンの命令聞いてきたのにどういうことです?
なんで?
ボロが出るのも怖いから降谷さんとも組織内で行動を共にする以外は別行動をずっと取っていたし、公安とも連絡を取ってなかったのにこんなのって理不尽すぎる。
あとストレス大分マッハでしんどいんだけど労働環境もうちょっとどうにかなりませんかなりませんねすみませんっした。

「…その心は?」

あまりの理不尽さに内心号泣しながら両手を上げて問いかければ、こちらを睨むこわぁいおめめ。
私はジンのこの目が怖くて仕方ない。
ずっと殺されるんじゃないかって思うくらいには怖い。
というかジンが怖い。
前世の微かなる記憶に残るこの男は実際関わっても分かる通りかなり冷酷な人間である。
お前ほんとに血が流れてんのかよってレベル。
いやごめん口には出してないからセーフだよね?お願いそんな目で見ないで泣きそう。

「今まで全て従順にこなしてきたお前が顔をしかめるとは珍しいな?」

えええっ、何それそんだけ?
マジ言いがかりなんだけどどういうことだよジンさん。
なんて言えるはずもなく、正直に思ったことを口にする。

「いや、だってこれブラジルじゃん。流石に地球の裏側まで行くのはちょっと」

ていうかそっちにも組織の人間置いてんだからそいつらにやらせろよ。
私である意味がわからない。

「なら一つ賭けをしようじゃねぇか」

凶悪に笑うこの男の賭けなんて、絶対イカサマ紛いのものに決まってる。
悲しいかな、それを飲まなければ私は速攻眉間に突きつけられた銃でこの世とおさらばである。

「勝ったら疑い晴れる?」
「ああ、もし勝てたらの話だがな」

ほらー、この顔だよ。
絶対に殺すマンじゃん。

「今夜うちと手を切りたいと申し出たある組織の殲滅をテメェが一人でできたらお前の勝ちだ」

完全なる負け戦じゃないですかーやだー。
しかも暗殺メインで証拠隠滅の為に徹底的にやるジンにしては大胆すぎやしないか?
お頭の頭だけじゃだめなの?
なんで殲滅?

「従順なお前なら首を振るなんざできねぇよなぁ」

疑問形ではないそれに、素直で従順なバーバラは頷くだけです。
ほんとなんで私疑われた?
というかマジでこのコードネームつけたやつふざけんなよ。
コードネームのせいでジンに散々揶揄われてるんだけどなんなの?パワハラだよ?
口が裂けても言えねーけどな!!!

「日本人らしく刀でも振るって勝ってくるんだな」

放り投げられた日本刀。
去り行くジン。
いやほんと、こいつハナから勝たせる気ねぇじゃんか!!
完全バッドエンド死亡である。

「ほんと無茶させるよねー」

黒の組織ってブラックだから黒の組織なのかな?
口調はこんなにも明るいのに、がったがたに震える手の情けなさよ。

「ビビってんじゃねぇよやるっきゃないだろバカ犬」

従順なる忠犬様なら死なずにご主人様の元に帰らなきゃだろーが。
あの人は忘れてるかも知れないけれど、あの日貰った綺麗な首輪は今も私の首にぶら下がっている。
高校卒業してからはプライベートでしか付けれなかったけど、組織では別に付けてても大丈夫そうだったからお守り代わりにつけていたけど、これがないと忠犬は頑張れないらしい。
この存在を思い出すたびに、私はバーバラではなく苗字名前であることを思い出す。
バーバラに呑まれるわけにはいかないのだ。

私はメンタル絹ごし豆腐の忠犬だ。

よし、大丈夫、ちゃんと戻ってこれる。
大丈夫。


「忠犬なんだからちゃんと戻って来るにきまってるだろ私」

大丈夫、大丈夫、何度も自分に言い聞かせる。
あのクソ怖い男に噛み付くいい機会じゃないか。
ジャイアントキリングといこうじゃないか。
震える体は全て気のせいだ。

とりあえずレッドブル飲んどけ。
授かるのは天国への翼でない事を祈る。



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