それからというもの、隣のクラスの友人のため、そして私の為、降谷先輩を見かけるたびに忠犬よろしく声を掛けまくった。

「降谷先輩!先輩は今回も学年一位だったみたいですね。私は10位でした!」
「お前いつも10位だな」

時にはテストの結果を話したり

「降谷先輩さようなら!因みに私はこれから友達とカラオケです!」
「気をつけて帰れよ」

帰り際に友達と遊ぶ報告をしたりとそりゃあもう犬のようだったと後にかの友人は語っていた。
因みに彼女は先輩を見れればそれでよかったらしく、私が声をかけることによって此方を向く先輩をひたすらガン見してたらしい。
あくまでファンであり、恋人になりたいわけじゃなかったとかなんとか。
どうやら間近で先輩を見る機会が多く欲しかったらしい。
ピアノはしっかり教えてくれたからよしとする。
そうして私がピアノを習得した頃、彼女の降谷先輩熱は落ち着いたらしく、私も先輩に声をかける頻度が減った。
廊下に出るたび、すれ違う人が降谷先輩だったら声をかけようと意識していたことをやめた瞬間、案外すれ違う機会そのものが減った気すらした。
…まぁ向かいの校舎に居るの見つけても大声で呼んでたからな。
いやほんと、その節はご迷惑おかけしました。

「苗字」
「あ、降谷先輩おはようございます」
「ああ、おはよう。最近お前俺のこと避けてるか?」
「はい?いや、最近先輩のこと見かけないのでお声を掛けないだけですが?」

そうして運動の秋、食欲の秋と騒がれる頃、初めて降谷先輩から声を掛けられた。

「それにしても先輩から声を掛けて頂くのは初めてですね」
「今まではお前がうるさいくらい声掛けてきてたからな」
「そういえば友人に忠犬って言われました」
「俺のクラスでもお前忠犬って呼ばれてるぞ」
「はあ!?」

全くもって心外である。
先輩方にまで人外扱いされてたとか初耳なんですけど。

「最近忠犬が尻尾振ってないけど何かあったのかと聞かれたから、声掛けただけだよ」
「完全犬扱い!?」
「まぁ体調悪いわけでもないようだし、いいよ」
「あれ?私が悪いことしたみたいな流れなんですけどこれいかに」
「煩かったやつがいきなり静かになると気味が悪い」
「言いがかり!!」

じゃあな。と何故か一人満足げに頭をひと撫でしてさっさと教室へ向かって行った先輩の背中を見ながら、首を傾げるのだった。
いやほんとなんだあの人。
でもまぁ頭を撫でられるのは悪くない。




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