夢を見る。

真っ暗な夢。
自分の手を見下ろせばどろりとぬめった感触と、生暖かい温度に身体中の血液が抜けていくような感覚に襲われる。

名前には正義感のある人になって欲しいと思ってるよ。

朗らかに笑う父。
正義感のある人。
それは警察になることだと思っていた私はきっと甘かった。
私自身が正義感を持って職務をこなしているわけじゃないことは、薄々気づいていた。

気づけば私は誰かの言葉無くしては何もできない人間になっていた。

誰かに背中を押してもらわなくては
誰かに間違ってないと言われなくては
誰かに指示をされなければ

私は何もできないのだ。

それに気づくには遅すぎて、自分で考えて行動するやり方がわからなくなっていた。
どうしたらいいのかなんて思いつかなくて、誰かの言葉を求めていた。

生きてさえいればいい。
死ななければそれでいい。
父の、母の理想の娘になれればそれでいい。

思い返せば自分自身で何かを望むことはなくて、いつだって誰かの声を自分の行動にしていた。

公安の諜報員として、
仕事として人を殺し、仕事として組織に深く入り込む。
入り込む為に組織の人間の言葉に従順になって全てをこなしていく。
そうして出来上がった私は紛れも無い人殺しで、人外で、本当にこれが父の、母の願った正義感のある人の行動なのだろうかと分からなくなる。

「…っ、」

起きるといつも冷や汗で寝巻きは濡れていて、頭を掻きむしって泣き喚きたくなる。
死にたく無い。
任務で人を殺している時、私が思ってるのはそんな自分勝手なことだけだ。
ジンの目が怖い私は、噂の通りジンの犬なのかもしれない。

「…大丈夫…大丈夫、私は苗字名前…ジンの犬じゃ無い…強いて言うならあの人の犬だ」

錆びついたネックレスを握りしめて、苗字名前だと言い聞かせる。
そうじゃないとバーバラに飲み込まれそうで、怖くてたまらないのだ。

「どうせならこのタイミングで出てこいよな…」

こんな悪夢にうなされるくらいなら、腐った友人の話をいくらでも聞いてやる。
例えそれが自分の上司のホモ話であってもね。

「…よし、大丈夫。私は大丈夫!」

ぱちぱち頬を叩いて確認して、そうしてまた目を閉じれば今度はちゃんと寝れるはず。



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