最近兄の機嫌がすこぶる悪い。
そりゃあもう、妹を毎日サンドバッグにするくらいに。
私の家族構成は大学病院の医院長の父と、兄が一人。
年齢差は6歳。
この兄は私の事を憎んでいる。
なぜかと言えば、6歳の兄は母と父のことがそれはもう大好きだった。
金持ちの家。
不自由のない暮らし。
優しくも厳しい父と、美しく包容力のある母。
いやまぁ母に関しては私を産むのと引き換えに亡くなっているので父からの話でしか知れないけども。
兎に角その母を奪った私を嫌っているのである。
お前のせいで母さんは死んだのだこの人殺しめ。とはサンドバッグ妹をぼこすかやる兄の口癖である。
そして父は仕事で忙しい中、愛しの妻が命と引き換えに産み落とした幼い娘を育てる為に、仕事以外は私に付きっ切り。
6歳といえばまだまだ小学生で、親が恋しい兄は一気に両親を奪われたことになる。
そして6歳ともなるとずる賢さというものが搭載されてたりする。
いやほんと、どっからそんなクソみたいなやり口覚えてくんのかね。ってレベルである。
よく昔の少女漫画である、顔はやめな、ボディにしなボディにってやつ。
物心つく頃には前世の記憶を持っていた私は、なんとお子様でかわいそうな人なんだろう。仕方ない私が大人になるしかないな。実際精神年齢は私のが上だし。
と全てを諦めた。
いやまぁ痛いもんは痛いし、できれば勘弁して欲しかったけど、兄のストレス発散法すらもいつしか自分への暴力にすり替わってたのも気づいて居たし、6歳の子供から親を奪ってしまったことにも多少なりとも罪悪感はあるので我慢した。
いや嘘ほんとは内心ちょっと腹立ってる。
でもその性格が治るとは思ってないし、父にチクろうなんてもんならこの人は完全に道を外すのだろう。
父の跡継ぎとしてなんとしても医者になって欲しかったし、それになにより私は医者なんて多忙な職にはなりたくなかったので、なんとしても兄を医者にする為ならばストレスは全て引き受けようと頑張った。
そりゃあもう、将来のこと考えたら余裕で我慢を選ぶ。
現在大学生の兄がちゃんと父の跡継ぎとなるまでもう少しの辛抱である。
「名前!」
「どうしたの兄さん」
にこりといい子の仮面を貼り付けて側へ寄れば、案の定腹めがけて蹴りがはいる。
っぶねー!入りどころ悪かったら骨イってたぞ今の!!
しかしそこは悪知恵だけは働く兄である。
痣は残せど骨は折らず、ギリギリ病院に行かなくても済むレベルで暴力を振るうのだからある意味尊敬する。
この絶妙な手加減具合がまた拷問じみてるけどな。
早くおわんないかなぁ。
医学を学んでるくせに手当てはしてくれないのだから、めきめきと私の手当てスキルが上がって行く。
まぁできるに越したことは無いけれど。
「くそ、どいつもこいつも馬鹿にしやがって…!」
「…っ、」
ぼこすかぼこすかと腿や腹等服で隠れる場所が何度も蹴られ、何度も殴られる。
今日は刃物やタバコじゃないだけマシだな。
勉強ができないわけではないが、何時も3番目くらいの成績の兄は、一番を取れないストレスで当たることが多い。
小学生の頃、私が年甲斐もなく全力でテストやって全て満点を叩き出した時、父は褒めてくれたが兄の反感を買って蹴り飛ばされた時に万年10位を決めたのは懐かしい話である。
別に悪い順位でもないし、父を失望させない成績で尚且つ兄の反感を買わない成績が10位だったので、全力で手抜きをしながらキープしていたり。
誰か褒めてくれてもいいのよ?
そんな事を思い出しながら耐えていると、満足したのか兄が去って行くのを床とキス寸前の状態で眺めてから自分の手当てをする。
精神的には落ち着いてるのに、体は恐怖を覚えて勝手に震えてしまうのだから情けないことこの上ない。
でもまぁあとちょっとって考えたら少しは楽になるし、あの人が医者になったらさっさと私は家を出て優雅な一人暮らしをきめるのだ。
「ピアノ、まだ父さんに言ってなかったな」
テスト期間を利用して勝手に音楽室のピアノを借りて居るけれど、まだ父に聞かせるには自信がない。
帰りたくないからピアノに逃げてるのもあるんだけどね。
毎日サンドバッグは流石の私も嫌気がさす。
「…またピアノ弾くかな」
幸いテスト期間も入って残る生徒も少ない今がチャンスだろう。
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