act.2

朝早くに目が覚める。

act.*格好と呼び方

携帯のディスプレイを見ると朝5時のデジタル文字が清恋を覚醒させた。
集合時間には後30分ある為、何とかすれば間に合うだろう、という考えに清恋は行き着き、とりあえずと言わんばかりに準備を始める。

「よし、20分ぐらいか。後10分もあれば大丈夫だろ。」

ローファーを履き、外へ出る。
心做しか空気が冷たい。
玄関の鍵を閉めたことを確認し、走り出す。
パタパタと走る音が静かな街に広がっていく。
途中携帯で時間を確認すれば5時半まで残り5分。
既に立海は目の前だ。

「間に合ったー・・・」
「・・・?清恋ではないか。」

そんなに急いでどうした?と平然と真田は清恋に問う。
その言葉に清恋は溜息をつき、真田の隣に移動して肩を並べて歩き始めた。

「そう言えば清恋。」
「なんでしょうか。」
「規定の女子制服はどうした?」

スカート履いてるじゃないですか。
と清恋は淡々と答える。その視線は部室の方へと定まっていた。
先に行ってますね、と呟くように言ってから清恋は部室へと走っていく。
部室の近くには誰もおらず、ひっそりとしていた。
取り敢えず中に入ろうとドアノブに手をかけるが…

「・・・開かない。」

ガチャガチャと音を立てるが、一向に扉が開く気配はない。

「嘘でしょ?」
「嘘じゃないぜィ。」

後ろから風船ガムの破裂する音が聞こえ、清恋は振り向く。
予想通り丸井ブン太がそこにいた。

「部室の鍵は真田か幸村だからなぁー」
「・・・さっき振り切っちゃいました。」
「そりゃ残念。もう暫く待ってろィ。」

思わず清恋は部室の壁にもたれ掛かりながらずるずると体制を体育座りに変化させた。
そして丸井と昨晩のテレビ番組の内容等、他愛もない会話をしていると真田がやってきた。
真田は無言で清恋を一瞥した後、ポケットから何ら変哲のない鍵を取り出して扉を開けた。
それとほぼ同時に切原が朝の挨拶とともに姿を現す。

「あ、風紀委員長もいたんスね。」
「なんだ、いちゃ悪いのか。私はマネージャーになってしまったんだぞ。」
「えぇ?!風紀委員長がッスか?!・・・キャラじゃないっスね・・・」

あんたのところの親父さんの命令でね、と半ば溜息混じりに清恋は言う。

「うへぇ、そりゃまた災難でしたね……」
「だろ?ってか、赤也はなんで私に対して敬語を使うんだ?」

素朴な疑問をぶつけてみる。
これは切原に対してだけではなく、同級生の殆どに言えることであり、かねがね誰かに訊ねてみたかった事の一つだ。

「えーっと、何となく、ッスかね・・・」
「何だよ、それ。私が怖い、って事なのか?」

眉間にシワを寄せながら清恋は切原に詰め寄る。
切原は慌てながらも、そういう事じゃなくて、と続ける。
切原が言うには清恋に対しての敬語がつい出てしまうのは、清恋が他の生徒が持ち得ない何かが滲み出ていて思わず、という事らしい。
何とも理解し難いが少なくとも切原はそうらしい。

「ふーん・・・じゃぁ、赤也。特別に私に対してのタメ口、そして名前呼びを許そう。」
「う、上から目線ッスね。」

そんな会話をしている時に真田が部室へと到着した。
やっと部室の中へと入れると思いきや、真田は部室の壁にもたれ掛かり腕時計で時間を確認している。

「真田先輩、鍵開けないんですか?」
「今日の当番は幸村だからな。待っているのだ。」
「いや、先輩は鍵持ってないんですか?」
「持っているが?」

そう答えた真田の視線は校門から続くグラウンドへの道に定まっていた。
思わず溜息が漏れる。
そう言えば昨日は幸村がいなかったと気がついた清恋は真田に昨日の幸村の行方について問う。

「あぁ、先生と話していたら部活の時間をすぎていたらしい。」

清恋が今日になって何度目か分からなくなる溜息をついた瞬間であった。

【上司に恵まれない】

(こんな感じでやって行けるのだろうか)
(そう言えばこの人たち全国覇者だった)
(そう見えないのは私が凡人だからか)

(2017/10/03) 歌暖

乱雑カルテット