Act.2
───、突然後ろからものすごい音が聞こえた瞬間に体が後ろに反った。
髪を引っ張られてるみたいなのだが、後ろにいるのは空条なわけで、引っ張っている理由がわからない。
Act,2
「空条、何してんだよ。」
「どうにかしやがれ・・・」
「はぁ?」
「・・・オメェのスタンドが俺の机を殴ったんだよ・・・今は痛がっているけどな。」
「・・・見えないんだけど。」
私と空条はそれなりに大きな声で話していたが、クラス全体が騒がしくなっていたため、特に目立つことはなかった。
空条は髪を離したあと、自身の机の右下を指差した。
見てみるとそこには空条や花京院よりも小さく、それでもなお男性と同じぐらいの大きさの体格で、猫耳の生えた男らしきものがうごめいていた。
机を殴った手が痛かったのだろう。
とりあえず声をかけてみる。
「おーい、スタンド?」
「俺の名はキャットマジッカーだ!!」
くわっ、と効果音の付きそうな勢いで顔を上げた“キャットマジッカー”・・・めんどくさいからキャットと呼ぶことにする。
「キャットは私のスタンドか?」
「その通りだ。」
すくっとキャットは立ち上がり、胸を張る。
髪と思われるものは長いが、男・・・雄?のようだ。
花京院のスタンドよりも人間らしく見え、人語を喋っていて安心する。
「どんな能力があるんだ?」
空条がキャットに話しかける。
キャットはキッ、と空条を睨み、ふっと鼻で笑った。
「驚いて飛び跳ねるなよっ!俺の能力はコピーだ!!」
へへーん、と更に胸を張る。
何をコピーするのだろうか。
スタンドそのもの?
能力だけ?
それとも実在しているもの?
一人でうんうん悩んでいると、空条が『スタープラチナ』と呟き、青いスタンドが出現する。
ごついなぁ・・・
「コピーか・・・じゃぁ、俺のスタンドをコピーしてみやがれ。」
「・・・蘭、あいつのスタンド名を叫んでくれ。そしたら能力が出るから。」
額に血管が浮き出つつある空条がキャットを見つめながらそんなことを言った。
それに対してキャットは私に耳打ちをする。
スタンド名を呼ぶ、ということからスタンドそのものか、その能力のどちらかに絞られた。
「言えばいいんだよね?・・・スタープラチナ・・・」
真横でぐにゃりと背景が歪んだあと、隣には猫耳男ではなく青いのがいた。
「うそ、だろ・・・?」
ギロりと空条がキャットを睨みつけ、自身のスタンドを殴るよう私に伝えた。
なんとまぁ、ドMな発言だこと。
「キャット、思いっきりやれ。」
「城鈴、てめ・・・」
空条の言葉が途中で途切れる。
理由は簡単、キャットが殴ったから。
教室の後ろの黒板にぶつかって、空条の体がズルズルと落ちていく。
・・・・・・もしかしたら死んだかもな。
「死んでないよ。」
「うわっ、」
いきなり花京院が話しかけてきた。
ふわふわと毛の束が肩にあたっている。
「もたれかかんじゃねえよ。」
「うわ、マジでスタプラだし。」
ぺちぺちとスタープラチナになったキャットの胸筋を叩いている。
けらけら笑いつつ、花京院は空条の傍へと行った。
ぼそぼそと会話が聞こえてくるが、完璧には聞こえない。
なんだか暇になったからキャットに話しかけてみる。
「キャット、お前さ本来はどれぐらい強いわけ?」
「・・・・・・空条本体と戦って一瞬でボコボコにされるぐらい・・・」
「つまりは弱いわけか。」
「ち、ちげぇよ!能力がすごいからそれに比例してだな・・・・・・」
ふーん、と半信半疑でキャットから目をそらし、空条達へと視線を向ける。
大男二人が座り込んで話し込んでいる姿はかなり圧巻ではある。
二人の横には青いスタープラチナと緑の何か。
なんだか爬虫類っぽく見えるのは私だけだろうか。
「蘭、ちょっとこっちおいでよ。」
花京院が呼んでいる、ができるだけ行きたくない。
だが、花京院を見ると目が笑っていないのがすぐにわかったから素早くそばに寄る。
空条の頭からは血が滴り落ちていた。
とりあえず大丈夫かどうか聞いてみる。
「大丈夫に見えるか?」
「だって空条じゃん。」
「・・・・・・・・・やれやれだぜ・・・」
空条はどれだけ吹っ飛ばされても落ちない帽子を深く被り直し、ゆっくりと立ち上がった。
それと同時にチャイムが鳴り響いた。
いつの間にか担任も教室の中に入っていて、こっちを一瞥したあと教卓へと向かった。
あーそうですか。
見て見ぬふりってやつ?
あれか、空条と花京院と同じ人種だと思われてるだろ。
私の目指している平凡で平和な暮らしはどこへやらだ。
「帰りのSHRはじめるぞー。」
【目指すは】
(平和で平凡な一生)
(今では真逆になったんじゃない?)
(お前らのせいだろうが)
(2017/10/03) 歌暖