Act.4

「城鈴さん」
担任のテレンス・T・ダービーに呼び止められる。

Act.4

この学校一平和なクラスだと私が認識している6組に向かおうとしている途中だというのに、何故こいつはタイミングの悪い時に限って私を呼ぶんだ。
天と地ほどの差、月と鼈、まるで担任の声が死刑宣告のように聞こえる。
薄ら寒い笑みを浮かべた担任はよくわからないビニール袋を差し出して口を開いた。

「これを2組に持って行ってくれませんかね」
「・・・・・・私がそれを持っていかなければならない理由が御座いません」

今、私の目の前にいる担任と呼ばれる存在は正直に言って私の中で敬意の対象外だ。
ここは学校内で、相手は担任、そして目上だという点から敬語を使うことはしてはいるが、それすらもできれば辞めたいと感じるほどにこの変態に対して嫌悪感を募らせている。

「・・・経済のテスト」

自身の耳がぴくりと反応をしたのを感じる。
こいつは今なんといった?
“経済のテスト”と言ったな。
確かにうちの担任の受け持ちの教科は経済だ。
そして私は大の経済が苦手なことで教員の間でも有名らしい。
こいつはまさか。

「平常点、欲しくないんですね」
「今すぐ持っていきます」

作り笑顔を貼り付けて、私は担任から袋を奪うように手にする。
ぱちゃんと袋の中が動いた。
液体のようなものが入っているようだ。
もう一度故意に振ってみると、粘度の高めな液体が入っている感じがする。
油のような、潤滑油と呼ばれるもののような。

「これ、何入ってるんです?」
「あー、油だとか言っていましたよ」

自分に関係が無くなったからかぶっきらぼうに担任は答える。
これだからこいつは嫌いなんだ。
それにしても油なんて何に使うんだ?
家庭科で使うなら家庭科室に持っていけばいいだろうに。
そもそもなぜ袋に入れる必要性が?
容器ごとでいいだろ。
色々と考えを巡らせていると不純な考えが頭をよぎる。
潤滑油、は別の使い方も、あるのだ。
想像してしまった自分にも嫌気がさし、目つきが悪くなってしまったが、とりあえず2組に向かって歩き出す。
後ろから担任の鼻歌が聞こえてきて、このまま油をぶつけてやろうか、とも考えたが後始末のことを考えてやめておこう。
せっかく6組に向かうため5組の前まで来たというのに、この短時間でもう一度同じ場所を通る羽目になるとは思ってもいなかった。

廊下に先程もいた仗助と億泰がこちらを指さし、笑いながら“蘭ってばなんでまた通るんだよ”と言いやがったのでキャットを出現させ、スタープラチナ、と呟く。
一瞬にしてスタープラチナに変化したキャットには仗助と億泰の視線が注がれていた。
見えるのか。
それとも恐らく怖い顔をしている私を見ているのか。
どっちでもいい。
私は、今、非常に、むしゃくしゃしている。

「ギリギリまでやれ」
「あいさー!」

キャットが嬉しそうに声を上げ、右手を握り拳を作る。
スタープラチナが笑顔でファイティングポーズをしているのかなかなか滑稽だが、まぁ、それは置いておこう。
左足を前に出し重心を寄せて思い切り腕を突き出す。
それは最初に伝えたとおりギリギリで止めるつもりだったのだが、仗助の恐らくスタンドなのだろう、妙にハートを前面に出している水色とショッキングピンクの人形がキャットの拳を軽々と止めた。

「はぇー城鈴もスタンド使いなのかよ」

スタープラチナをマジマジと見ている億泰が呟くようにいう。
そう言うからにはやはり億泰もスタンド使いなのだろうな。
というかやばい、早く行かなくては。
さっさと終わらせて6組に行く予定か狂ってしまう。
さくっと謝ってここは離脱だ。
キャットを元に戻させ、両手のシワとシワを合わせて顔のそばに持って行く。

「すまん、むしゃくしゃしてたんだ!また今度きちんと話そう!」

そう捨て台詞のように私は言って小走りでその場を離れる。
少し離れたところから私の名前を呼ぶ声が聞こえるが、すまん、振り返ってもいられないんだ。
私を6組が呼んでる。
仗助も億泰も見た目は不良だが中身はめちゃくちゃいいやつだし、ちゃんと話せば理解してくれるだろう。
良識のある友人がもてて私は幸せだ。
なのに何故私のクラスにはあんなのしかいないんだ。
クラス替えが早くしたくなる。

【学校の裏事情】

(スタンド使いはきっと惹かれ合う)
(なんでまるで運命の赤い糸のようで)

(2017/10/06)歌暖

乱雑カルテット