chapter7


夕闇に沈む洋館へと足を踏み入れたダンテとレディ。そこには、多くの悪魔が彼等を待ち構えていた。

「おい、レディ。どうやらこいつら、俺達を歓迎してくれているみたいだぜ」
「…そうみたいね。それじゃあ…」

カチリ、と銃口を悪魔達に向け、ダンテとレディは悪魔のような微笑みを見せた。

「鉛玉をプレゼントしてあげるわ」

ドゥン、と鈍い音をたてて、パーティが始まった。

レディはダンテと背中合わせになり、愛銃で敵の急所を的確に打っていく。弾が無くなれば素早く補充し、その装填速度は通常の人の何倍も速い。本当は弾を装填する時間すら惜しいくらいだ。敵が多い場合は手榴弾などで時間を稼ぐが、今回は思ったより平気そうである。

「弾もタダじゃねーんだもんなァ」

背後からそう聞こえたかと思ったら、空気が切れる音がした。いつもダンテが背中に背負っているフォースエッジが日の目を浴びたのだろう。ダンテはどちらかというと銃の使用を好むため、出会ってまだ間もないレディは彼が剣を扱うところをあまり見たことがない。

しかし、だからと言って彼の剣の腕前が劣っているというわけでもないのがまた憎たらしいところ。特に、ダンテ持ち前の脚力で前進し、剣で敵を突く技は見ていて圧巻である。

「ホント、人間じゃないわね」

一突きで3体の悪魔を倒しているダンテを見て、悪口のような褒め言葉を零すレディ。これ以上よそ見をしている余裕は彼女にはなく、相手の悪魔の鎌を交わし、眉間に一発おみまいしてやったのだった。

***

硝煙のたちこめる中、悪魔を倒した2人。今はダンテの鼻を頼りに、屋敷をさまよっていた。

「レディ、こりゃちょっと時間かかるぞ」
「何よ」
「敵さん、相当奥深くにいるらしいな。そこまで広くもねぇ屋敷だが、空間と空間を繋げて迷路状態だ」

ダンテはがしがしと頭を掻きながら説明すると、レディは「それでもいいから早く案内しなさいよ」と、彼の背中に蹴りを入れた。

「痛ェ!ったく…もう少しおしとやかにしろよなー」
「悪かったわねぇ、おしとやかじゃなくて。あまり長居はしたくないのよ」

つい、と窓の外へと視線を向けると、すでに外はチカチカと星が瞬いているのが見てとれるほど暗くなっていた。

「それにしても…女ばっか狙う悪魔ねぇ…」
「あら、珍しくないわよ。やっぱり悪魔にとって女性の方がいいのかしら。ねぇ?」
「俺に聞くなよ。−…まあ、すくなくとも俺はもっと優しくて可愛いオンナノコが好みだけどな」

ふふん、とダンテがレディの方を見てそう言い返せば、コメカミにゴッ、と固いものがあたった。言わずもがな、レディの愛銃である。

「そのケンカ、買ったわ」
「冗談だろ!…ったく、おそろしい女だぜ…」
「そう。そんなに脳天ぶち抜かれたいのね」
「いーからその銃しまえっ!」

顔を盛大に引きつらせながらレディの銃を掴み無理やり下ろさせる。小さく「チッ」と舌うちが聞こえたが、ダンテは聞こえなかったことにしようと決めた。

「(…それにしても、優しくて可愛いオンナノコねぇ。意外なタイプだわ。……コトネみたいな感じの子ってことかしら)」

ふと、レディは先日出会ったハーフの女の子を思い出した。口元に手をやりくすくすと笑う様子は、女のレディから見ても可愛らしく、思わず庇護欲が湧いてくるほどだった。あのような少女がダンテの隣に立っていたらー…。そこまで考えてレディはぶるぶると頭を振る。

「(じ、冗談じゃないわ!あんなに可愛い子に半魔のこいつは勿体無い!私ったらなんて想像してるのかしら…)」

その可愛い子がすでにダンテと知り合いでいるなど、レディは露知らず。そして一方のダンテはと言うとー…。

「(優しくて可愛いオンナノコっつった時に、思わずコトネの顔思い出しちまった…いやいや、それはものの例えであって…。いやだからといってコトネが可愛くないとかそういう話でもなくてだな…)」

何故かこの場に居ない彼女を思い出し、勝手に1人で迷走していた。彼女のことを思い出すと、何となく余裕がなくなってしまうようになったのは、いつからだろう。

まだ彼女の『正体』も暴いていないというのに、このままではこちらが先に折れてしまうことになる。それは嫌だ、と男のプライドを全力で発揮して保たせているのが現状である。

「ちょっとダンテ。何よ急に黙っちゃって」
「何でもねーよ。…ん?」

レディに声をかけられ、ダンテは我に返った。そしてそれと同時に、悪魔とは別の、何やら甘い匂いがどこからともなくただよっていることに気が付いたのである。

「レディ、何か匂わねーか?甘い匂い」
「甘い…匂い?しないけど…」

レディが何も感じない、ということは、悪魔関連の匂いなのだろう。妙に気になるそれにレディに寄り道をしてもいいかと尋ねると、彼女は了解してくれた。悪魔関連ならば、放っておくわけにもいかないと判断したのだろう。

相変わらず空間と空間を繋げたあべこべな屋敷ではあるが、確実に匂いのもとに近づいていた。そして、一番匂いがきついドアを開けてみると、そこにはー…。

「何よ、これ…!」

丸い球体のようなものに、1人1人閉じ込められている女性達の姿が広がっていたのである。

「匂いの元はこの球体だな。悪魔に攫われた女はここに閉じ込められてたってわけか…」
「この子…」

レディは1つの球体に近寄ると、その中にいる女性をじっと見つめた。間違いない。今回の依頼人が言っていたアンという女性だ。顔の方は写真で確認しているため、間違えるはずがない。

「−…で、どうするよ、レディ」
「とりあえず、助けましょう。ここの親玉を探すのはそれからよ」
「助けるっつったってー…。うおっ、何だこれ?すげぇ柔らけぇぞ」

ダンテが近くにあった球体に触れてみると、予想に反してとても柔らかかった。レディもダンテに続き触れてみると、確かにこちらの球体も柔らかい。球体が柔らかいというよりも、どうやら中に液体が入っており薄い膜で覆われているといった感じであろうか。

「卵…みたいな感じね。ううん、それよりダンテ。早く助けましょう。多分、刃物か何かで切れ目を入れたら…。…やっぱり!」

レディは簡易ナイフを取り出し球体に切れ目を入れると、球体はあっさりと切れ、中から大量の液体が流れ出てきた。女性に外傷は無く、水を飲んでしまっている様子も無い。他の球体を割り終える頃には、部屋の床は例の液体でびしょびしょになってしまっていた。

「…おそらく、あの球体の中で人間を保存してたんだろうな」
「そうね。外傷はおろか、体に全く異常が見られないもの。あの球体が原因で間違いないわ」

ダンテの意見に同意するレディ。女性達は、今は横にして安静にさせている。今のところ、意識が戻った女性は1人もいない。

「レディ、お前はここにいてこいつら見てろ。とっとと俺が親玉見つけて来るからよ」
「最初からそのつもりよ。まだこの屋敷には下級悪魔がいるんですもの。この人達を放ってどこかへなんて行けないわ」

さっさと行ってこい!というレディに、ダンテは溜め息を吐きながら親玉がいるであろう場所へと向かって歩き始めたー…。

***

「う、ん…?私…」

琴音は、何やら気だるい感覚と共に目を覚ました。自分が急な頭痛で倒れてしまったのは覚えている。しかしそれならば、倒れた場所で目覚めるのが普通だ。ところが自分が今いる場所は明らかにどこかの部屋の中。それもイスに座らされている。

「あら、お目覚めかしら」
「っ!?」

その時。女性らしい声と共に、ヌッ、と背後から手が出てきて琴音の顎を捕えた。あまりに急なことで、悲鳴すら出なかった琴音は、驚きと緊張から冷や汗が背中に流れるのを感じた。

「ふふ…恐がらなくていいのよ」

すっ、と琴音の眼前に出てきたのは、栗色の緩いウェーブがかかった髪を持つセクシーな女性。もしやこの女性が自分を助けてくれたのではないかという考えに至った琴音であったが、彼女の持つ雰囲気の独特さに、口を思わず噤んでしまった。

「あなた…とても生命力に溢れているわ…。あなたのような子から、生命力を貰い続けたら、きっと私の美貌はこのままね」
「…え、」

何やら、聞き捨てならない台詞が聞こえた。

「あなたの生命力を、私に頂戴?」

女の手が再び伸び、琴音の首を捕えようとした瞬間―…。琴音は座っていたイスを手で後ろに押しのけ体を落下させ、女の手から回避した。そしてそのまま横に移動し、何とか女から距離を取る。

「…あら、すばしっこいのね」
「あなた、もしかして悪魔…!」
「……悪魔の存在を知っているのね」

しかし、女は特に慌てることもなく、ただただゆったりと笑う。その時。再びあの謎の頭痛が琴音を襲い始めた。

「――っ!」
「ほら、あなたが急に動くから。大丈夫。痛いことなんてしないから。だから、ね?あなたの命を私に頂戴」
「(さっきから、気絶してばっかりだ…)」

段々と落下していく意識。せめて頭を打たないように受け身を取っておこう、なんて、場違いなことを考えながら、琴音は再び気を失ったーー…。


***NEXT
2013/09/06