chapter3


「えっとレオンさん…」
『どうした?何か問題でもあったか?』
「レオンさんって、悪魔とか信じるタイプですか?」
『そうだな…銃が効かないものは苦手だな』

なんともレオンらしいご返答をいただいた。

***

さて、昨夜はあれから少しだけダンテと談笑をして#name1アパートへと帰ってきた。ダンテには、何か困ったことがあれば俺に依頼しろよ、と、さりげなく仕事の宣伝をされ、苦笑しながら頷いておいた。ちなみに彼の店の名前は『Devil May Cry』と言うらしい。

『悪魔も泣きだす』…確かにデビルハンターであるダンテは、悪魔にとっては鬼のような存在であろう。実際昨日は泣きだす前に掃除されてしまったわけだが。そしてあれから一夜明け、朝の8時。とりあえず琴音はレオンに電話をかけることにした。

「おはようございます、レオンさん」
『おはよう、コトネ。お疲れ様』
「レオンさんこそ、お疲れ様です。さっそくなんですが、報告させてもらいますね」
『ああ』

街はスラム街や歓楽街が近いため細い裏道が何本もある。しかし、先日の謎の塔が倒壊したことにより多くの道は塞がり、単純なものとなった。こちらとしてはとてもありがたいことです。そして塔に近寄ると悪いことばかり起きる、という理由により塔の周辺にはほとんど人がいない。故に道の舗装に関してはかなり時間がかかると思われます。残念ながら昨日はターゲットを見つけることができませんでしたが、それを見つけることが今回の目的ではなかったためそれはいいでしょう。

そう報告した後、そして琴音はふと思い出したのだ。悪魔、という非現実的な生物に襲われた事実を。そして、冒頭に至る。

『コトネ、どうした急に。まさか本当の悪魔でも見たのか?』
「あ、いえ、そういう訳では…」
『なんだ、歯切れが悪いな』
「そんなこと無いです!えと、それで今日は打ち合わせ通りで大丈夫なんでしょうか?」
『…?ああ、大丈夫だ。無理はするなよ』
「はい!」

今日の予定は、ターゲットの確認。琴音は絵描きに扮してターゲットの姿を確認する、という手筈になっている。幸いターゲットが住むアパートのすぐ裏手に大きな公園があるので、そこに腰を下ろしターゲットとの距離を測ろうと考えているようだ。

それでは失礼します、と電話を切り、琴音はため息を1つ。…とりあえず、レオンは悪魔がどうのこうのというよりも、敵に自分の攻撃が効くかどうかが問題なようだと琴音は苦笑した。さすがゾンビと戦って生き残っただけある。その点では、レオンは悪魔を前にしても勝利を治めてしまいそうな気がしてしまうのは仕方のないことだろう。

いやそれよりも、急に『悪魔』だとか言い出して、変な子に思われなかっただろうか…。やはりレオンさんに言わなかった方が良かったかも…、と、後悔先に立たず。琴音はレオンがこの話題をさっさと忘れてくれることを祈っておくことしかできないのだった。

***

この町の公園は、広い。円形にその地は広がり、周りは豊かな緑に覆われている。また植木や花壇も手入れが行き届いていて、綺麗な色の可愛らしい花々がのびのびと咲いている。

琴音が腰を下ろしたベンチの前方には、カラフルな色をしたアイスクリーム屋があり、後方には坂を上ると軽い展望台となっているスペースが広がり公園を一望することができる。一言で表すと、とても爽やかな場所だ。こんなに爽やかで、しかも今日はとてもいい天気ときている。

これが任務でなかったら、琴音はこのままうつらうつらとうたた寝をしていることであろう。しかし今は、プライベートタイムではない。少しだけそのことに対して残念に思いながら、琴音はベンチから立ち上がり、さっそく準備を始めた。地面にシートを引き、カバンから1枚1枚パネルを取り出し、その上に並べる。そのパネルとは、絵だった。これらは実際に琴音が描いた絵なのである。

琴音は趣味の1つとして絵を描いて休日を楽しんでいたため、絵自体は結構な枚数がある。…ただ問題が1つ。それは、これらの絵が、決して絵について学んだことがない素人絵であるということだ。正直これらの絵を持ってくるのも、琴音はかなり悩んだ。

こちらの絵とこちらの絵ではどちらがまだマシか。ダミーとはいえ売り物として出すのであるから、あまりひどいものを持ってくることはできない。しかし絵描きに扮している以上、やらねばならない。そうして吟味に吟味を重ね、選ばれたのが手元にある5枚の絵だったのだ。

琴音は並べた絵の横に、椅子とイーゼルを置き、位置を確認する。イーゼル、と言っても琴音が持ってきたものは3本足で背が低くシンプルなもの。別にイーゼルが無くとも、絵は描ける。だが、今回はイーゼルでなければダメなのだ。膝の上にキャンバスを広げては、視線が下へと向かってしまう。しかし、イーゼルならば基本的に姿勢は真っ直ぐに保つことができる。

それはつまりー…この位置からよく見える、ターゲットの部屋を監視しやすいということなのだ。

「それにしても…」

ふ、と琴音は横に視線をずらし、公園の中央を見た。この公園を訪れた時からずっと気になっていたのは、1つの銅像。馬に乗って駆けている様を表したそれは、人間では決してない。それでもなぜか魅せられるものがあり、琴音はずっとこの銅像が気になっていたのだ。

これはいったい何を表しているのか。ダンテなら、この銅像が何なのか教えてくれるのだろうか?

「(今度会ったら聞いてみましょう)」

そうして、鉛筆を持ちキャンバスに線を引き始めたのであった。

***

今日のダンテは、ひどく機嫌が良かった。

それは、昨日の出会いが関係しているのであろう。昨晩、シャワーを浴びたてのダンテの鼻を突いたのは悪魔の匂い。こちらがシャワーを浴びたにも関わらず、のうのうと出てくるとはなんて空気が読めない悪魔なんだ、と1人ごちる。ダンテは髪をタオルでガシガシと拭き、裸の上半身に直接真っ赤なロングコートを着て店を飛び出したのである。

例の塔が崩壊してからというもの、夜になると悪魔は好き放題に町の中を横行している。塔−…テメンニグルにいた悪魔の生き残りだろう。まったくしぶとい奴らだ、と、ダンテは大きく舌打ちした。

悪魔の匂いを辿るものの、なかなか相手が見つからない。どうやら相手はひっきりなしに動いているようである。大体の悪魔はゆっくりと移動するか、人間に化け普通に歩いているかである。このように忙しなく動くということは…。

「誰か襲ってんのか…」

ダンテは再び大きく舌打ちをした。悪魔の匂いが分かると言っても、ダンテの鼻に引っかからないよう巧妙に自分自身を隠す悪魔もいる。同業者であるレディが動いても、いまだ悪魔に殺されてしまった人間は後を絶たない。

「ったく、嫌になるぜ!」

とんっ、と、建物の屋根に立つと、眼下には2体の悪魔とー…少女が対峙していた。全くダンテの予想は大当たりだったのである。しかし鉄パイプを持ち構える少女に、ダンテは1つ違和感を覚えた。今までダンテが見てきた中で、悪魔と対峙した人間というのは腰を抜かすか気絶するかが大半で、このように対峙している様を見たことが無い。

明らかに人間ではない容姿をした悪魔に、こうも真っ直ぐに対峙できるものなのだろうか。それとも何もかもヤケになってしまったのか。

「まあいい」

しかしそれは今はどちらでもいいこと。ダンテは愛銃を悪魔に向かって構え、引き金をひいたのだった。

悪魔と対峙していた少女を助けてからも、ダンテの中で違和感は続いた。悪魔が砂になって消えてしまったというのに、彼女は冷静に今度はダンテに敵意を持った。もしかしたら最初から悪魔の存在を認識している人間だったのかもしれない。そう思いはしたが、悪魔について教えろとせがんできたためその線は消えた。

最初は悪魔について教えることもノリ気でなかったダンテであったが、教えてやればもう安易にこんな場所を1人で歩き回ることはないだろう。そう思い、教えてやることにした。絵描きをやっていると名乗った少女は、名前をコトネと言った。今日この町に越してきたばかりだと言うから、なるほどだからあんな所を歩いていたのかとダンテが納得すると…。

「それじゃあ、この街で起こっている殺人事件や行方不明者が続出しているのは、」
「(おいおい…)悪魔の仕業さ」

すぐ琴音の言葉に返答したものの、ダンテは面食らってしまった。それならば、アレか。この少女は今この街で殺人事件が多発しているというのに、夜の街へと出てきたというのか。

夜遊びをする風にも見えないが、人は見た目で判断できないともいうし一概に決めつけることはできない。一応、今の街は危険だと注意すると素直に応じた。やはりこの少女は読めない。

またダンテは本気で少女のことを自分より年下だと思っていたが、少女は少女でなかったことに彼は1番驚いた。16、17歳辺りだと思っていたのだが、まさか21歳だとは想像すらつかなかった。

「(2歳差か…)」

子供っぽい面が多く見えたが、いざ意識するとそうでもないことが窺われた。それは、琴音がダンテの口もとについたピザソースを拭ってやったことから始まるだろう。あの時はまだ年下だと思っていたが、ドキリとしたのもまた事実で。実際の年齢が分かってからは、時々出てくる年上の表情に、本当に彼女は年上なのだな、と多少失礼なことも考えたりしたものだ。

それは目を伏せた時の表情であったり、髪を耳にかける動作であったり、様々な場面でのことである。当初の目的であったはずの悪魔の話からはだんだん離れ、すっかり談笑し合う仲にまでなったわけだが、本当にただ彼女と自分は『合う』のだなとダンテは感じたのである。

口説かれればそれが実は悪魔であったり、仕事の依頼人が美人でラッキーと浮かれれば性格が最悪であったり、セックスの相性はどうしてなかなか良い女と巡り会わないし、さらには先日知り合ったレディと自身が呼ぶ女にはいきなり鉛玉をプレゼントされた。

女運は、自分で言うのもなんだが悪い方だとダンテは自負している。もちろん琴音もただの絵描きではないことなど気付いているため、また悪い女運を発動させたかとも考えた。しかし、

「秘密のある女の全てを暴かせる、ってのもいいじゃねぇか」

ダンッ、と机に両足を置き、ダンテは不敵に笑ったのだった。

***NEXT
夢主のいる公園というのは、アニメDMC10話で出てくる公園を意識して書いてます。アニメを知っている方にはいったい何の銅像かバレてしまいますねー
2013/02/27